心理学のおすすめ本と選び方を解説!【テーマ別35選】
この記事では、心理学に興味を持ち始めた方や深く学びたい方に向けて、活かしたい場面や読みやすさ別におすすめの本を紹介します。
目次
心理学の本の選び方
心理学の本は分野も読みやすさも様々であるため、どうやって自分に合った本を見つければいいのかわからなくなりがちです。以下では、選び方の例を4つ提案します。
①知識を活かしたい場面から選ぶ
日々経験している場面やテーマに関わりが深い本を選べば、読むモチベーションを保つことができますし、活かせそうな知識とそうでない知識も判別しやすくなります。
生活の様々な場面で心理学は活用されており、それぞれ「○○心理学」といった分野に分かれています。また、各分野では主な研究内容や手法も様々です。知識を生かしたい場面を決めて、関係がある心理学の分野や手法に注目してみてください。
場面 | 心理学の分野 | 研究内容・手法 |
---|---|---|
ビジネス | 組織・産業心理学 行動経済学 | キャリアカウンセリング 消費者心理 |
育児、教育 | 発達心理学 教育心理学 学校心理学 | アタッチメント(愛着)理論 アイデンティティと発達課題 教育相談 |
恋愛 対人関係 | 社会心理学 | アサーション |
メンタルケア ストレス対策 | 臨床心理学 | アドラー心理学 認知行動療法 マインドフルネス |
ほかにも、スポーツの場面、災害の場面など、多様な現場を意識した研究がなされています。
②読みやすさで選ぶ
心理学の本は、初心者・中級者・上級者向けで読みやすさが異なります。
まずは初心者向けから始めて、徐々にステップアップするのがおすすめです。初心者・中級者向けの本を読んでいるうちに、自分が興味のある分野が見つかるという利点もあります。
初心者向けの本の特徴
タイトル | 「心理学入門」 「マンガでわかる○○」等 |
大きさ | 様々 |
主な読者 | 心理学を学んだことがない人 |
イラスト | 多い |
主な出版社 | 日本能率協会マネジメントセンター、西東社、大和書房など |
【注意点】
古い情報や、すでに否定された研究結果が載っていることもある。
きちんとした裏付けがない本もある。著者の経歴や保有資格を確認することが重要。
中級者向けの本の特徴
大きさ | 四六判、B5、A5など 新書(縦長の形をした小さめの本) |
主な読者 | 心理学を学ぶ学生 心理学の基礎知識がある人 |
イラスト | 少なめ |
主な出版社 | 有斐閣、ミネルヴァ書房、筑摩書房(ちくま新書)、岩波書店(岩波新書)、 講談社(講談社選書メチエ)、サイエンス社など |
上級者向けの本の特徴
大きさ | 四六判、B5、A5など ハードカバーが多い |
主な読者 | 心理学の研究者 心理職として働く人 |
イラスト | 少なめ、ほぼ無いことも |
主な出版社 | 誠信書房、北大路書房、福村出版、金剛出版、朝倉書店、勁草書房、ナカニシヤ出版、 岩崎学術出版社、弘文堂、創元社など |
- 多くは研究者の論文や学会発表が元になっている
- いままさに研究途上の最新情報が凝縮されている
③ベストセラーや名著から選ぶ
ベストセラーや名著といわれる本から探すのもおすすめです。多くの人に長い間読まれてきた心理学の本は、それだけ内容が信頼でき、多くの人に理解しやすいものになっています。
ベストセラーの中には現在では否定されたり修正されたりした記述もあるものの、現在の心理学や私たちの考え方に与えた影響は消えていません。ベストセラーや名著に触れると、現在の心理学についても見通しが持てるようになります。
④心理学がテーマのマンガから選ぶ
心の悩みをテーマとしたマンガの中には、著者の実体験が元になっているものがあります。実際に経験した事柄を描いた作品には相応のインパクトがあり、一度読んだら印象に残りやすいです。
普通の入門書や専門書では無味乾燥だと感じたら、読んでみてはいかがでしょうか。
活かしたい場面別おすすめの心理学本
初めに、活かしたい場面別におすすめの心理学本を紹介します。
ビジネス、子育て・教育、恋愛・対人関係、メンタルケア・ストレス対処の4場面から紹介していきます。なるべく読みやすい本を中心にセレクトしました。
「ビジネス」で役立つ心理学本5選
ビジネスに役立つ心理学本には、大きく二つの区別ができます。
①消費者が物を買う心理に関するもの
心理学の知見を活かすことで、顧客の行動を予測したり、購買行動を起こしたりしやすくなります。
②職場の人間関係に関するもの
心理学の知見を活かすことで、職場内のトラブルを未然に防いだり、悩みを抱えるメンバーに適切なケアを与えることができます。
ただ「心理学」の言葉を使いながら、根拠を示さず経験に基づくアドバイスのみ書かれている本も多数あります。
本を選ぶ際には、著者の情報を確認してみましょう。「産業・組織心理学」「行動経済学」の研究実績がある、もしくは「産業カウンセラー」「公認心理師」「臨床心理士」などの資格を持っている著者ならば、信頼できる内容を書いている可能性が高いです。
1. 役立つ! 産業・組織心理学
本書は比較的コンパクトな分量で、ビジネスに関する心理学の分野が一望できます。
リーダーシップの理論、キャリアカウンセリングについて、現代の職場に求められる価値観に沿って解説しているため、すぐに活かしやすい内容となっています。現代日本の多数を占める中小企業の状況にも対応しています。
マーケティングや広告研究との関わり、消費者心理については記述が少なめであるため、他の本で補足するのがおすすめです。
2. 消費者心理学
「何が衝動買いを促すのか」「ブランドものが欲しくなるのはなぜか」等、身近な疑問ごとに様々な分野の心理学理論を紹介しています。
それぞれの章は独立しているため、どこから読み始めてもOKです。また、経済学の知識はなくても問題ないように書かれています。消費者心理について学ぶ最初の一冊におすすめです。
3. 恐れのない組織―「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす
「心理的安全性」が組織にとって大切だと提唱した最初の本です。
心理的安全性とは、「相手との関係がぎくしゃくするかも」「待遇や昇進に悪影響があるかも」といった不安なく、相手に率直に意見を伝えられる状態をいいます。
本書では、職場で率直に意見を述べられなかったために重大な事故となった事例として、福島原発についても取り上げられています。なぜ心理的安全性を確保することが重要なのか、実感をもって理解することができます。
本文の書き方が冗長だと感じたら、巻末にある解説から入るのもおすすめです。解説は出版社から無料公開されているため、参考としてください。
『恐れのない組織』の「解説」を公開します。|英治出版オンライン
4. 実践 職場で使えるカウンセリング:予防、解決からキャリア、コーチングまで
職場でよくある相談についての対応のコツを、事例から解説する本です。カウンセラーとして働く人を読者に想定していますが、管理職の方や人事担当者にもおすすめです。
部下のマネジメントをする立場や人事担当となると、何かと相談を受けることが多くなります。「人間関係がうまくいかない」「うつになってしまった」「転職したい」といった内容は、ありふれていても対応が難しいものです。本書では、そのような相談について専門家の意見を知ることができます。
本書では職場で使えるカウンセリング技法について、「アドラー心理学」や「認知行動療法」など、12種類の方法が紹介されています。興味のある手法があれば、専門に解説した本を探してみても良いかもしれません。
5. 職場でできるアンガーマネジメント:パワハラ、メンタル不調、離職を防ぐ!
アンガーマネジメントという考え方について、歴史から実際の活用方法まで解説した本です。
アンガーマネジメントとは、たんに怒りの感情を抑えたりなくしたりする個人のテクニックではありません。怒りの感情が沸き起こる前の小さなストレスについて、他人の協力を得て事前に穏やかに処理する方法でもあります。怒りの感情に関係している考え方のくせを見つけ、変えていくように共同で促していくことも含まれます。
著者によれば、アンガーマネジメントは組織全体で取り組むべきことです。そのため本書の最終章ではアンガーマネジメント研修の手引きも収録しています。組織のメンバーのストレスを軽減し、雰囲気を変えたいと考えている管理職や人事担当者の方におすすめできる本です。
「子育てや教育」で役立つ心理学本2選
心理学の知識には、子どもを育てたり指導するにあたって役立つものもあります。子どもがどのように育ち、複雑な心の働きをもつようになるのか、心理学は100年以上前から研究してきたからです。
子育てや指導について書いた本では、よく耳にする教えや生活実感に反する内容が書かれていることもあります。その場合は、内容の根拠が書かれているかを確認しましょう。そこで、きちんと過去の心理学の調査や実験結果が示されていたら、信頼性がある本だといえます。
子育てや教育は「発達心理学」「教育心理学」の分野が得意とするテーマなので、この分野から探してみるのもおすすめです。
1. 子育ての知恵:幼児のための心理学
東京大学で発達心理学を研究してきた著者が、一般向けに書いた著作です。
育児の場では、「育児は母の手で」「三つ子の魂百まで」等の通説が言われてきました。それらは科学的に裏付けがあることなのか、子どもは本当は何を必要としているのか、著者が平易に解説してくれます。
2. 10代を支えるスポーツメンタルケアのはじめ方
若者のメンタルヘルス教育と研究に従事する著者が、主にスポーツの場面で子どもがぶつかる悩みについて、ケアの仕方を解説しています。
幼児期を越えた子どもは、部活動やスポーツクラブなどで何かスポーツを始めることも多いでしょう。頑張って練習をしたのに結果が出ないこともあるでしょう。そんなとき、親には何ができるのかを丁寧に解説しています。
親に限らず、学校現場やスポーツクラブの教育者にもおすすめの本です。
「恋愛や対人関係」で役立つ心理学本2選
恋愛や対人関係で悩みを抱える人にとって、心理学の知見は解決の糸口を見つけるための大きな助けとなります。
ただ、恋愛にテーマをしぼっている心理学の本は、そこまで数が多くありません。恋愛に関する本は多く刊行されていますが、たんに個人的な恋愛経験からくる主張を述べたものもあれば、統計調査や神経の研究に基づく仮説を述べるものもあります。したがって、著者の専門領域などを確認し、きちんと心理学の手法を使っているのか判断する必要があります。
恋愛関係だけではなく友人関係や夫婦関係にまで対象を広げると、選択肢は少し多くなります。「社会心理学」や「家族心理学」に関係していますので、本を探す際には参考としてみてください。
1. 恋の悩みの科学 データに基づく身近な心理の分析
恋愛心理学の第一人者である松井豊の編集で刊行された、最新の研究書です。
恋愛に関係する本では「吊り橋効果」や、不倫に関するヘレン・フィッシャーの著作などが引き合いに出されることがあります。しかし、これらは70年代や80年代の英米圏で行われた研究であり、内容も現代日本にフィットしたものとは言えませんでした。
一方この本では、現代日本の心理学者が、国内で恋愛について研究した成果を集めています。その結果、ストーカー被害やDVなどのトラブル、婚活、マッチングアプリ、異性間ではない恋愛などのトピックを扱っています。心理学を通して見ると、身近な事例も違って感じられるかもしれません。
2. マンガでやさしくわかるアサーション
著者の平木典子は、1990年代から「アサーション」という概念を提唱してきた心理学者です。
アサーションとは、「自分も相手も大切にする自己表現」のことで、ビジネスの場で主に活用されてきました。近年はアサーションを家族間や介護の現場など、親密な関係にも応用しようという動きがあります。
この本では、キャビンアテンダントの主人公がアサーションを学び、苦手だった自己表現が徐々にできるようになる過程をマンガで描いています。現在、国内でもっともやさしいアサーションについての本です。
親しい人にもうまく自己主張ができないとお悩みの方は、一読してみてはいかがでしょうか。
「メンタルケアやストレス対策」に役立つ心理学本3選
現代では、人間関係からくるストレスに悩まされる方が増えています。背景には対人サービス業の増加や家族構成の変化などが挙げられています。そんな中、ストレスや心の悩みを解消できるとうたう本が多く出版されています。
しかし、ストレス対策やメンタルケアの手法に使われる心理学の理論じたいを解説した本は多くありません。以下では、心理学の理論に焦点をあてて学べる本を3冊紹介します。
1. ストレスに負けない生活: 心・身体・脳のセルフケア
主に医療現場で臨床心理学の知見の紹介・実践を続けてきた熊野宏昭の著作です。
本書の特徴は「ストレス解消法」だけでなく、その背景となる「ストレスによる不調の起こる仕組み」まで詳しく解説されていることです。
また、原始仏教の思想を生かしたストレス対処法として近年注目されている「マインドフルネス」についても紹介しています。マインドフルネスが他の心理療法とどのように違い、なぜ効果が期待できるのかを説明しているため、自分なりの見取り図を作ることができます。
2. マンガでやさしくわかる認知行動療法
「認知行動療法」は、もともとはうつ病の治療法としてアメリカで考案されましたが、近年は職場や教育現場でメンタルケアの方法として取り入れられるようになっています。認知行動療法の専門家に相談しなくても、自分一人で取り組める本も増えています。
本書は、認知行動療法の基本的な考え方についてマンガのストーリーに沿って解説する本です。実践するための記録表もついているため、すぐに生活に取り入れてみたい方の一冊目としてもおすすめです。
3. マンガでやさしくわかるアドラー心理学
アドラー心理学を30年以上教えているカウンセラーの著者が、漫画のストーリーに沿ってアドラー心理学の考え方を解説する本です。
ただし、アドラーの言葉の「仮想論」(Fictionalism)を「認知論」と紹介したり、著者の独自見解も含まれているので、後述する『嫌われる勇気』も一緒にチェックするのがおすすめです。
【初心者向け】読みやすい心理学本2選
以下では、非常に読みやすい心理学の本を2冊紹介します。どちらの本も、中級者向けの本を探すために役立つのが特徴です。
1. マンガでわかる! 心理学超入門
心理学全般について、漫画のストーリーに沿って解説する入門書です。
本書は、漫画のストーリーや展開にも非常に力が入っています。監修の精神科医・ゆうきゆうは、青年漫画誌で『マンガで分かる心療内科』の原作を長年手掛けている実績があるためです。
友人関係、恋愛、ビジネスなどの場面ごとに心理学の理論を紹介しているので、興味のある分野が見つかれば、他の入門書や中級者向けの本に進みましょう。
2. 東京大学の先生伝授 文系のためのめっちゃやさしい心理学
対話形式でわかりやすく、重要な単語は大きくしたりマーカーを引いたりと、細かな工夫がされています。
この本が優れているのは、冒頭の第0章で「正しい心理学」と「あやしい心理学」を見分ける基準を紹介しているところです。著者によれば、「妥当性」「信頼性」「反証可能性」という3つの基準を満たしているのが、正しい心理学の知識といえます。
- 妥当性:測定したいものをきちんと測定できているか
- 信頼性:何度測定しても同じ結果になるか
- 反証可能性:測定方法の誤りを第三者が確かめられるか
よくある心理テストや心理占いはこの基準を満たさないことが多く、「当たっている」と感じられても、本来の心理学とは別物とされます。
この3つの基準が心理学のすべてではないですが、本書は他の心理学本を選ぶ際にもたいへん役立つはずです。
【中級者向け】心理学の参考書・ベストセラー
心理学全体について基礎的なことがわかったら、次は少しレベルの高い本にも挑戦してみましょう。
自分の興味がはっきり定まっていなければ、大学講義レベルの参考書やベストセラーがおすすめです。心理学の専門分野について、さらに踏み込んだ知識を学ぶことができます。
もう活かしたい分野や興味が定まっている場合は、「活かしたい場面別おすすめの心理学本」に進んでみてください。
大学講義レベルの参考書
主に大学生を対象にした参考書は、心理学の各専門分野についてバランスよく紹介していることが多く、その分野の読書案内も付いていることがあります。興味がある分野が見つかれば、必ず次の読書の手引きになってくれるでしょう。
数ある参考書の中で、最もおすすめできるのは次の1冊です。
心理学 新版
本書では、心理学の様々な分野を網羅的に紹介しています。
全24章それぞれに読書案内と練習問題が付属しているので、詳しく知りたい分野を見つけて、次の読書に進むことができます。
初めから終わりまで全部読むというよりは、興味のあるテーマ毎に拾い読みしたり、用語事典のように使うことができる本です。一冊手元にあると、あとで必ず役に立つでしょう。
心理学本のベストセラー3選
以下では、専門家以外にも世界中で多くの読者を獲得した心理学本を3冊紹介します。
心理学の研究は日々進歩し、流行も激しく変化していますが、半世紀以上前から変わらず読み継がれている本もあります。その理由も合わせて紹介していきます。
1. 嫌われる勇気
「アドラー心理学」の要点を、青年と哲人の対話形式で解説している本です。31言語に翻訳され、世界で累計約610万部を売り上げている日本発のベストセラーです。
本書が多くの人に愛読された理由の一つは、翻訳文学のような独特な言葉づかいを取り入れたことがあります。まるで小説の会話文を読んでいるかのようで、このような心理学の本は他にほとんど例がありません。
有名な本だからと身構えずに、小説を読むような気持ちで一度手に取ってみてはいかがでしょうか。
2. ヒルガードの心理学
1000ページを超える圧倒的な情報量の心理学書です。1953年の初版から16回にわたって改訂が加えられています。
これほどの大著ですが、本書はもともと心理学を研究する大学生に向けた本として書かれたため、意外にも親しみやすいです。写真や図が豊富に取り入れられているほか、各章には内容の要約が入っています。
古くからある本ですが、時代に合わせて変化する現場の状況もしっかりフォローしています。例えば、精神疾患診断の基準であるDSMは2013年5月に「DSM-5」となりましたが、この改訂も最新16版ではきちんと反映されています。
3. 影響力の武器(第3版)
社会心理学者のロバート・チャルディーニが著した一般向けの心理学書です。全世界で累計200万部以上発行され、異例のベストセラーとなりました。
この本が専門家以外の多くの人にも読まれているのは、世の中の普通の人の感覚を大事にした内容になっているからです。実際この本では、町で働く人々の言葉がそのまま引用されています。著者はかつては中古車販売店、資金調達団体、テレマーケティング業界などに実際に潜入して調査を行ったこともあり、高い聞き取り調査のスキルを持っています。チャルディーニは自分自身の見聞きした情報と、過去の研究者たちの成果を組み合わせることにより、精度が高く血の通った仮説を提出することができたのです。
この本はたいへん実用的でもあります。人に様々な行動をとらせようとする6つの戦略に対して、容易に踊らされないようにする防衛策も同時に紹介しているからです。
ビジネスとして戦略を仕掛ける側ではなく、詐欺や悪徳商法から身を守る生活者の視点でも役に立つ本と言えるでしょう。
【上級者向け】心理学の専門書
心理学の専門書は、それぞれの分野に特化していることが多いです。
また、専門書は読者として心理学の研究者や心理職として現場で働く方を想定しています。したがって、該当の分野でよく使われる用語や、著名な研究をある程度知っていることを前提に書かれています。
大学講義レベルの参考書の内容を押さえておくと、スムーズに理解することができるでしょう。
統計の知識をつける本2選
心理学の専門書の内容を本当に理解するならば、基礎的な統計の用語は知っておく必要があります。現代の心理学の研究では、統計の知識がほぼ必ず使われているためです。
例えば、アンケート調査を行う際には次のようなことを考える必要があります。
- 何人くらいを対象に調査すれば、
確からしい結果が出るのか - 何%までの回答なら、
誤差とみなして無視するべきなのか
これらは統計の問題です。つまり統計がわからないと、そもそも心理学の調査研究が始められません。したがって心理学の専門家は、必ず統計について学んでいます。
心理学の専門書では、行った統計処理について詳しい説明が載っていないことがあります。読者に専門家を想定しているため、統計の説明は省略されているのです。したがって、専門書の内容をきちんと理解したい場合は、以下2冊のような統計の本を読んでみるのがおすすめです。
1. マンガでわかる統計学
統計の基礎知識について、マンガのストーリーを読みながら理解できる本です。
本書では心理学という言葉は登場しませんが、心理学の本の読書にも有効です。心理学で出てくる統計用語は、統計学で使われるものと共通しているからです。
本書は数式や計算については最小限にとどめて解説しているため、統計について全く学んだことがなくても親しみやすくなっています。
2. よくわかる心理統計
「どうして心理学に統計の知識が必要なのか」という疑問から始まって、心理学でよく使う統計手法まで要点を絞って紹介しています。
刊行は2004年とやや古いですが、心理学でよく使われる統計の知識はほとんど変わっていないため、今でも十分有効な解説書です。
基礎心理学の専門書
心理学の中でも、見たり聞いたりといった知覚のしくみ、あるいは感情を持ったり他人の心を考えるしくみについて研究するのが基礎心理学です。
基礎心理学の内容を、生活にそのまま生かすというのはなかなか難しいものです。むしろ、次に紹介する応用心理学の基礎になる研究といえます。しかし、現代の様々な技術に結び付くところもあります。
シリーズ心理学と仕事
このシリーズで特徴的なのは、それぞれの分野の心理学がどんな職業で活かされているかを「現場の声」として紹介していることです。もちろん、基礎心理学にあたる「感覚・知覚心理学」や「認知心理学」についても例外ではありません。
例えば、視覚についての心理学的な研究は、弱視の方向けのサービス(ロービジョンサービス)の構築に活かされています。また、嗅覚と心理の研究は、香料を作る仕事(パフューマー)の中で必要とされています。
基礎心理学が、現代の科学技術を応用する基礎になっていることを感じられる有意義な本といえるでしょう。
応用心理学の専門書4選
応用心理学は、基礎心理学が見出した心の仕組みを、実生活に活用する分野といえます。以下では、すぐに活かせるというより、心理学の研究成果がしっかり解説されている本を紹介しています。
生活への活用を重視する場合は、本記事「活かしたい場面別おすすめの心理学本」を参照してください。
1. 臨床心理学特論
臨床(りんしょう)心理学とは、心に問題を抱える人を支援する方法や、心の病・ストレスへの対処法を医療・福祉・教育などの現場で考えていく学問です。
この本は放送大学大学院の講義のテキストですが、臨床心理学の概要を知るためにも有用です。臨床心理学に関わりの深い精神医学の解説に3章をかけ、心理教育、地域援助との関わりや、面接法にも多くの分量を割いています。また、各論にあたる心理療法について8章をかけて解説しています。学問的な知識と、現場の知識のバランスがよい本と言えるでしょう。
各章には自らの研究課題を考える例題と文献案内もあるため、自主的な学習にも最適です。
2. 消費者の心理をさぐる:人間の認知から考えるマーケティング
本書は、日本心理学会で行われた学者たちの講演が元になっています。あくまで「心理学の知見」に焦点を置いており、マーケティング理論の研究状況を網羅的に押さえてはいません。
ただ、現在のマーケティングのトレンドは非常に具体的に解説しています。例えば「物語」を活用したマーケティングがどのように効果を発揮するのかを心理学の手法で分析した研究が2つ収録されています。現場の施策を、心理学が検証したり裏付けを与えている状況がわかる本だといえます。
3. 災害から家族と自分を守る 「災害心理」の基礎知識
この本では、社会心理学の視点から、防災についてのアンケート結果や実際に起こった災害の事例を分析しています。
「なぜ被災ギリギリまで避難をしない人が出るのか?」「被災地で略奪が起きるというのは本当か?」など、他人事とはいえない疑問にも仮説を提案してくれています。統計の知識を得てから本書を読むと、より説得力を感じられると思いますよ。
4. スポーツ心理学:最高のパフォーマンスを発揮する「心」と「動き」の科学
この本の特徴は、スポーツ心理学の各理論が成立した背景を重点的に解説していることです。例えば、起きてから寝るまでの中間の時間が最もパフォーマンスを発揮できるという「逆U字型仮説」(ヤーキーズ・ドットソンの法則)がスポーツ心理学では知られていますが、その仮説がどのように導かれたのかを解説する本はあまり多くありません。
理論背景が分かれば、過去と現在の測定技術の違いを考慮に入れたり、さらに効果の高いトレーニング法も導くことができます。応用心理学の本を読むときにも、過去の理論について詳しく学ぶことが重要だと理解できる堅実な研究書です。
【教養を得たい方向け】心理学の歴史の本2選
教養を得るために心理学の本を読むなら、最もおすすめできるのが心理学の歴史の本だといえます。心理学の歴史を学ぶことは、世界史や哲学、医学、生物学や脳科学、統計学、教育制度の進歩を学ぶことにもなるからです。
心理学は、その時代の他の学問や社会状況に影響を受けて常に変化してきました。
例えば、医学や生物学で実験や統計の新しい手法が広がると、それを取り入れた新しいタイプの心理学ができます。また、社会の変化に伴い新しい施設ができたり、人々の求めるものが変われば、心理学の活躍する分野やテーマも次々に増えていきます。
そのため、様々な時代の心理学を知っていくことは、それぞれの時代にどのような研究手法が生まれたか、どんな社会だったか、人々が何を求めていたかを学ぶことにもなるのです。以下では、過去の心理学について要点を押さえられる本を2冊紹介します。
1. 流れを読む心理学史〔補訂版〕
2022年に改訂された心理学史の入門書です。大学の講義の教科書として書かれているため、語り口は比較的やさしくなっています。
この本の特徴は、歴史的な出来事や文化の変容から心理学がどう変わったかを記述していることです。例えば、心の病の研究で「トラウマ」が一大テーマとなった一因には、ベトナム戦争(1960~1975年)から帰還した兵士の多くが不調を訴えた事態があったといわれています。本書では、そのような社会状況と心理学のつながりもはっきり記述されています。
また、日本の心理学の展開について詳しく書かれているのも特徴です。心理学の本では、海外で行われた実験やドイツ周辺・アメリカの学者が多く挙げられる傾向にあるため、このような本はたいへん貴重といえます。
2. 心理学をつくった実験30
本書では、心理学の歴史の中でよく知られた実験を30件選び、その実験が何を発見しようとしたのか、心理学や他の学問にどのような影響を与えたのかを紹介しています。有名なものでは、ミルグラムの実験(通称「アイヒマン実験」)があります。これは、権威のある者からの命令により、一般の人でも見知らぬ相手に残酷な仕打ちを与えてしまうことを証明した実験です。この結果は、当時の世の中に驚きをもって迎えられました。
しかし、著者は本書でこうした実験的手法の限界も指摘しています。実験だけが現代の心理学ではないことも覚えておくべきでしょう。
【中級者~】心理学の最前線を知る本4選
比較的新しく生まれた心理学についても、近年では紹介が進んでいます。「心理学の歴史を知る本」の節で述べたように、社会の変化や技術の発展に対応して、心理学にも新しいテーマや研究手法が次々に生まれています。
以下では、ポジティブ心理学、進化心理学、神経心理学、ジェンダーの心理学について、専門家以外でも読みやすい本を紹介します。
1. ポジティブ心理学 科学的メンタル・ウェルネス入門
ポジティブ心理学は、2000年代に入って注目されるようになった新しい心理学の潮流です。従来、支持されてきた流派(精神分析、行動主義)ではなく、人間性心理学という流派の影響を強く受けた心理学です。
ポジティブ心理学の基礎を築いたセリグマンは、それまでの心理学が、人間に起きているマイナス状態(苦しみ、病、障害など)の解消ばかりに焦点を当てていたと批判し、心理学の手法で「幸福」や「人の心の優れた点」等を探求すべきだと主張しました。
例えば本書では、お金を自分のために使った場合と、他人のために使った場合のどちらが幸福度が高くなるかという実験を紹介しています。その結果、他人のためにお金を使ったほうが幸福度が高いことが分かったといいます。心理学の雰囲気に変化が起きていることを感じられる1冊です。
なお、ポジティブ心理学はあくまで心理学の手法を使った統計調査や面接法に基づいており、個人の心持ちを対象とはしていません。
2. [新版]ジェンダーの心理学:「男女」の思いこみを科学する
この本は「社会の構造によって生み出される性別の差」を意味する「ジェンダー」について、社会心理学の視点から分析を試みています。
「性別による行動や嗜好の差」は、心理学の研究の中でも昔から大きなテーマでした。しかし、従来は個人に焦点を当てた研究が多く、集団的な視点が弱かったといえます。実際には、どんな男女も時代や社会のステレオタイプな性別の見方から影響を受けて行動しています。そのような男女のステレオタイプの影響力を測る研究状況が一望できる専門書です。
3. 広がる! 進化心理学
進化心理学は心理学の一分野というよりも、心理学で研究している現象について、生物進化の視点から新たな説明を試みる学問です。
この本の特徴は、それぞれ違った分野の心理学の専門家が、生物進化の視点を加えることで研究にどんな進展があったかを解説している点です。あくまで、心理学の諸分野に軸足が置かれています。
配偶選択や淘汰など、生物進化上のテーマにこそ関心がある方は、次の本を参照するとより詳しく学ぶことができるでしょう。
4. 手を動かしながら学ぶ 神経心理学
神経心理学は、脳と行動との関係について研究する心理学の一分野です。1980年代から脳の活動を視覚的に観察する技術(PETや機能的MRIなど)が発展したことにより、研究が活発になりました。その成果は、事故により脳機能に障害が出た方の治療やリハビリテーションのために生かされています。
この本では、脳の活動状態を記録した写真や動画資料をデジタルデータで提供しています。文字や簡単な図だけでは理解が難しく感じたら、この本から学んでいくのがよいでしょう。
【学生・求職者向け】心理学の資格取得や研究に役立つ本3選
もし、心理学にかかわる分野で就職を考えているなら、いくつか有力な資格や試験があります。主なものは次のとおりです。
- 心理学検定
- 認定心理士
- 公認心理師
こうした資格や試験の準備を手助けしてくれる本も多数あるため、以下では厳選して2冊紹介します。
また、心理学を専門に研究してみたいという方に、1冊目としておすすめの本も紹介します。
1. 基本がわかる 心理学の教科書: 高校生からめざそう心理学検定2級
「心理学検定(2級)」を目指す人のためのテキストです。心理学検定は高校生・中学生の方も含め、心理学に関心のある人なら誰でも受験可能な資格で、高い級に合格すると、一部の大学・大学院で単位として認定される、入学試験の加点になる等のメリットがあります。
この本は単なる試験対策の本ではなく、将来的に心理職で働きたいと考えている高校生のために、大学の選び方、認定心理士と公認心理師の違いや必要な学習分野も解説しています。
この本は心理学のあらゆる分野を学ぶというよりも、心理学検定2級の合格に必要な最低限の知識(A領域5科目)を押さえるように構成されています。他の領域の知識は、教育や企業など現場の経験がないとなかなか実感して学びにくい、という著者の配慮がうかがえます。
2. 公認心理師のための「基礎科目」講義
この本は、心理学の初級者や中級者でも理解できる基礎的な参考書です。「公認心理師になるためには何をどう学べばよいか」という点に特化して解説しています。
公認心理師は、2018年から試験が開始された心理学の国家資格です。主に医療の現場で働く「臨床心理士」とは異なり、臨床以外の心理学についても大学院レベルの高度な知識を持っていることが求められます。
本書の出版社が運営する「iNext」というサイトでは、対応する講義動画を視聴することもできます。公認心理師の勉強を始める最初の一歩におすすめです。
3. なるほど! 心理学研究法
心理学の研究を行うための知識や心構えを解説した本です。先行研究の探し方、研究者としてやってはいけないこと(研究倫理)、論文の書き方や発表の仕方などがわかります。
これらの知識は、心理学の研究者ではない人にも有用です。ある研究成果が正しいものか確かめるには、類似の研究を探したり、手法がちゃんとしているか確認する必要がある場合もあるからです。自分で専門書を探したり、論文を読んでみるときに、必ず助けになる本だといえます。
【番外編】心理学がテーマの漫画2選
心理学の分野の中でも、うつ病など病気に関わる知識はなかなかイメージしづらいものです。しかし、マンガを使った解説本もあまり出ていません。
そこでおすすめなのは、身近な人の心の病をモデルにして描いた漫画です。一つの事例を特別扱いすることは少ない現代の心理学ですが、以下の2つの作品は精神科医や心理学者のお墨付きを受けています。
心理学の用語を実感を持って理解するために、あるいは、身近な人が心の悩みを抱えたときのために、ぜひ読んでみてください。
1. ツレがうつになりまして。
うつ病になってしまった夫との日々を描いた、実話にもとづく漫画作品です。
ユーモアのある描き方で、思ったより暗い雰囲気はありません。ただ、うつ病の人が普段では考えられない行動をとってしまうこと、一度治ったように見えても、とても回復に時間がかかることなどがしっかり描かれています。
うつ病は身体のケガとは違って、症状がいつも目に見えるわけではありません。ただ、この漫画では「うつ病の人がどのような毎日を送っているか」をありのままに描くことが、そのままうつ病の説明になっています。一般にイメージされるよりはつらそうじゃない、けれどやっぱり大変そうな、うつ病のつかみがたさを体感できるはずです。
2. マンガでわかる! 統合失調症
この漫画は、母が統合失調症にかかっていた経験をもとに、漫画家の中村ユキが創作した物語です。
うつ病の倍以上、国内に80万人の患者がいる「統合失調症」。珍しくないわりに、どんな病気なのかよく分からない方も多いのではないでしょうか。
この本を読むと、高いストレスや人間不信の気分など、だれにでも経験がある状況が統合失調症のきっかけになることがわかります。また本書では、統合失調症は早めに診断を受ければ回復することも述べられています。
自分自身だけではなく周りの人の速やかな受診のためにも、ぜひ読んでおきたい1冊です。
心理学本を選ぶ際のポイントとまとめ
膨大な数の心理学本の中から、本記事ではおすすめの本35点を紹介しました。
心理学の本を選ぶ際は、自分が知識を活かしたい分野を意識し、キーワードを決めていくことが重要です。
また著者の研究実績や保有資格は、本の内容が信頼できるか否かの目安とすることができます。「心理学」の言葉を掲げながら、現代の研究をきちんと押さえていない本も多数刊行されているため、必ず著者の情報を確認してから選ぶべきです。
心理学の研究は国内外で盛んに行われていて、日々内容も新しくなっています。そんな中で心理学の本を選ぶのはなかなか大変ですが、自分に合った本に出会えたときの喜びはそれだけ大きく、驚くような体験ができるはずです。
この記事を一つの参考として、心理学本を読む楽しみを見つけてみてください。