あなたの心を守る精神医学ベストセラー【おすすめ25選】

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心の病や、その治療法を解明する学問である「精神医学」。

精神医学に関する本は、国内でも膨大な点数が発行されています。その多くは、精神科・心療内科で働く医療従事者の方や、介護や精神保健福祉の領域で人を支援している方に向けたものです。しかし、それ以外の方にも向けて書かれ、話題を集めた「ベストセラー」と呼べる本もあります。

この記事では、一般の方にも広く読まれた精神医学のベストセラー本を紹介します。

精神医学とは? 

精神医学は、人のこころの不調について、診断・治療・予防の方法を研究・実践する学問です。

何を目的にしているのか

私たちを苦しめるこころの不調や病気を、医学の方法で解決することが精神医学の目的です。また、こころの働きを研究し、人々のこころの健康QOL(生活の質)を保つようにすることも目的としています。

医学との違いは?

医学は「基礎医学」と「臨床医学」に分かれます。精神医学は「臨床医学」の一種です。

医学は「基礎医学」と「臨床医学」に分かれる。臨床医学のひとつが精神医学。
精神医学と医学の関係

基礎医学は、人の体が病気になる仕組みや、病気を起こす原因について研究を行っています。

臨床医学は、基礎医学の知識をベースに、病気にどう対処するかを現場で実践しつつ研究する学問です。病気になっている人の身体の部位や年齢ごと、あるいは病気の進行度や治療方法毎に細かく分かれています。

臨床医学のうち、物の認識や感情など、こころの機能に関わる病気(精神疾患)を扱うのが精神医学です。

心理学との違いは?

「こころの不調を解決する」という目的があるかどうかが異なります。

精神医学は、最終的には精神疾患の治療につなげることが目的の学問であるのに対し、心理学心の仕組みを解明することを目的とします。ただ心理学の知識は精神疾患に対処することにも役立つので、臨床心理学という「精神疾患を解決する」ことに重点を置いた分野もあります。

精神医学は、「精神疾患に対処する」についての研究実践が含まれることも特徴です。心理学は、基本的には薬についての研究は含まれていません。また、人が精神疾患にかかっているかどうかを見極める「診断」の知識も、精神医学独自のものです。

精神科医しかできないこと:「精神疾患の診断」・「薬の処方」
精神科医しかできないこと

そのため、精神医学を学んだ精神科医と、心理学を学んだ心理士にも違いがあります。精神科医は、病気の診断や薬の処方といった「医療行為」ができます。しかし、心理士が医療行為を行うことはできません。心理学では、病気の診断や薬に関する専門知識はあまり含まれないからです。

「心療内科」は精神科と違うの?

心療内科は、心と体が相互に影響している前提で、患者の方の不調を身体へのアプローチで解決する場所です。他方、精神科は、心の不調を専門に診断し治療する場所です。心療内科は、あくまで「内科医」=身体の専門家が活躍する領域のひとつです。

しかし実際には、「心療内科」を掲げる医院に勤めているのは精神科医であることが多いです。これは診断のハードルを下げるため、慣習的にそうなっています。

かつて、精神科は重い統合失調症やうつ病の患者だけを対象にしていました。そこで、他の精神疾患や軽度の統合失調症やうつ病の患者も対象になる領域として「心療内科」が設立され、「心療内科=軽症のこころの不調を診る場所」というイメージが浸透しました。

精神科と心療内科の制度の変遷。
https://kachi-memorial-hospital.jp/blog/150/ より画像引用。

1980年代以降は、精神科も対象とする疾患を広げています。摂食障害など、精神科医・心療内科医・内科医すべての対象でもある疾患も存在しているため、心療内科(医)と精神科(医)の区別はあいまいになりがちです。

当記事ではこの状況を踏まえ、疾患によっては精神科医だけではなく内科医の書いた本も紹介しています。

医師でなくても精神医学の知識は役立つ?

もちろん役立つ場合もあります。

例えば心理職のかたや、介護・ケースワークなどの現場で働く方は、精神科医と協力することが多くあるため、精神医学の知識を持っておくとスムーズに連携できるでしょう。

対人支援職ではない一般の方が精神医学の知識を得るメリットは、次の2つです。

  • ①精神疾患や関連する障害に対する偏見の改善
  • ②精神疾患や関連する障害をもつ人との
    コミュニケーションを円滑にする
精神医学の知識を学ぶ意義。
精神医学の知識を学ぶ意義

精神疾患は、目に見える怪我や病気と違って表面に現れにくいため、古くから偏見にさらされてきました。精神疾患について精神医学の研究から正しい知識を得ると、自分や周囲が持っていた偏見を変えられるかもしれません。

また、精神疾患抱える人とよりよい関係を築く方法がわかる精神医学の本もあります。場合によっては、その人が回復したり生活の質を高める助けになるでしょう。

ただし、精神医学の本を読んでも、精神医学を学び医師免許を取得した精神科医以外は、精神疾患や関連する障害について診断したり、薬の処方を行ったりすることはできません。本を読むよりも、精神科医の協力を得たほうが早く解決する場合も多いので、本を参考にしつつも医療につなげていくことが必要です。

以下では、対人支援職の方や一般の方にも役立ったと定評のあるベストセラーを中心に紹介しています。

精神医学全般のベストセラー

精神医学は難しい印象を持たれがちであるにもかかわらず、入り口となる本が少ない傾向にあります。しかし近年話題になった本には、一般の読者を強く意識したものもあります。以下では、本当の初心者から医学生向けまで、難易度の異なる本3冊を紹介します。

1. 精神疾患にかかわる人が最初に読む本

精神疾患にかかわる人が最初に読む本
  • 一般向け
  • 照林社 (2018/10/29)

大きくデフォルメしたキャラクターと簡潔な解説が特徴の、現時点でもっともハードルが低い精神医学の入門書です。見開きページに情報をまとめているので、興味のある分野や用語を拾って読みやすくなっています。

「精神医学の教科書は難しすぎて読み切れない」という動機から作られたため、厳密性よりは大胆に図式化して書いたり表現したりしている部分もあります。細かなニュアンスは、個別の疾患に関する本や、マンガで補うことが推奨されます。

2. 教養としての精神医学

教養としての精神医学
  • 一般向け
  • KADOKAWA (2023/1/26)

YouTubeでも多数の動画を公開し、精神疾患の理解促進に努める医師による一般向け書籍です。

そもそもなぜ精神疾患というものが存在するのか」という疑問から、国内・世界の精神医学の発展と現状まで、他の実用書ではあまり触れない知識にも言及しています。すぐに役立つというよりは、精神医学の存在意義に関わるようなテーマに集中しています。

著者の立場は「精神疾患・精神障害を否定的に理解することは、患者の生活に実際に悪影響を与えている」というものです。たとえ当事者でなくとも、身近に悩んでいる人がいなくとも、誰にでも責任がある知識だと思って手に取りたい1冊です。

3. 標準精神医学 第9版

標準精神医学 第9版
  • 医学生・対人支援職向け
  • 医学書院 第9版 (2024/1/22)  第1版(1986年)

精神医学で「大学の教科書」といえる立ち位置のものは少ないですが、現在ではこれが最もおすすめできます。権威のある『カプラン臨床精神医学テキスト』は価格が2万円超と高額ですし、他社の『専門医をめざす人の精神医学』には、試験問題の記述がありノイズが多いでしょう。

1986年から新版が出続けている歴史の長い本ですが、内容は最新です。2023年に改訂された精神疾患の診断基準である「DSM-5-TR(日本語版)」を押さえ、古い用語は置き換えています。

「こころの病を描いた映画」など興味を引くコラムも掲載しており、医学生以外も読み進めるのが楽しい本となっています。

子どもを支援するための精神医学ベストセラー

思春期以降の子どもは、変化していく身体、将来の見通せなさ、学業や部活動の負担増、複雑化する友人関係など新しい困難にぶつかり、こころの健康が脅かされることがしばしばあります。

そういった危機にある子どもたちや、その保護者、教育関係者の助けになる精神医学の本はたくさん出版されています。以下では、定評のある4冊を紹介します。

4. 14歳からの精神医学

14歳からの精神医学
  • 対人支援職向け/一般向け
  • 日本評論社 (2021/1/12) 初版 (2011/10/20)

精神科医として、病院だけでなく中学校でも働き多くの生徒と関わってきた著者が、中学生や高校生を読者に想定して書いた本です。2011年の第一版が好評を得て、2021年に新版が発売されました。

一番の特徴は、著者が見てきた子どもたちの事例に脚色を加えて、ストーリー仕立てで紹介していることです。家族や友達からの真に迫った台詞が多くあり、共感しながら読み進めることができます。

エピローグにある「なぜ生きなくてはいけないのか」という女子生徒からの問いは、誰しも一度は思ったことがあるのではないでしょうか。これに対する著者の答え方は「生きる意味という絶対的な答えを探し続けるのは苦しいから、『どう生きれば生きる意味が生まれるか』を探してほしい」というものでした。後述する、フランクル『それでも人生にイエスと言う』にも通じるところがあります。中学生の苦悩には、時代や年齢を問わない人生についての本質的な問いが含まれています。

中高生に接する保護者や教育関係者のかたも、一度は読んでいただきたいベストセラーです。

5. 不登校に陥る子どもたち 「思春期のつまずき」から抜け出すためのプロセス

不登校に陥る子どもたち 「思春期のつまずき」から抜け出すためのプロセス
  • 一般向け
  • 合同出版 (2021/4/14)

本書は、児童精神科医として勤務・研究を続けてきた著者が一般の読者を想定して書いたものです。

精神科医による不登校や引きこもりに関する本は、実はそこまで多くありません。本書はその中の貴重な一冊です。

精神医学の立場からは「不登校」そのものの解消ではなく、その背景にある別の障害や発達について、もしくは依存症についての解説が主となります。この本も、不登校を解決するアドバイスというよりは、それぞれの細かな問題を分析する側面が強いです。ただ時代遅れの内容になることはなく、SNSなどのソーシャルメディアが普及している現代の環境と不登校の関係についてなど、しっかり押さえています。

多様な見解が入り乱れる不登校・引きこもり関連本の中で、「何が正しいかわからない」「不登校・引きこもりの背景をなるべく客観的に分析してほしい」という方に重宝されてきた1冊だといえます。

6. 10代のための もしかして摂食障害? と思ったときに読む本

10代のための もしかして摂食障害? と思ったときに読む本
  • 一般向け
  • 合同出版 (2021/7/26)

漫画が多く使われた摂食障害の解説書です。漫画家であり、摂食障害の当事者でもあった「おちゃづけ」によって書かれ、子どもの精神疾患を研究してきた医師・作田亮一が監修しています。

本書は、時代の変化にもしっかり対応しているため、子どもが読む際も違和感が少ない本になっています。例えばSNSの普及が摂食障害の背景になっているとも言われています。若年層の間では「痩せた体型が美しい」というイメージが共有され、危険なダイエット方法の拡散なども起きているからです。

摂食障害の本は、本書のように「現代の世の中にきちんと対応しているか」を重視して選ぶのがおすすめです。

7. 改訂 起立性調節障害の子どもの正しい理解と対応

改訂 起立性調節障害の子どもの正しい理解と対応
  • 対人支援職向け/一般向け
  • 中央法規出版 (2017/3/15) 初版:2009/4/30

起立性調節障害は、立ち上がった時に頭痛、めまい、倦怠感などの症状が起こる神経の病気です。思春期に発症しやすく、午前に症状が強いため、学校生活に支障をきたすことがあります。重症な例では、不登校やひきこもりの一因になるとも言われます。

本書の初版は1万8千部も刷られており、起立性調節障害について社会に認知を広めることに一役買っています。しかし、まだまだ同障害は「怠け」「夜更かしをしているだけ」と誤解されることも多い状況があります。本書を読めば、「どうしてこの障害が誤解されてしまうのか」も理解できます。引きこもり・不登校の本と合わせて読むことをおすすめしたい1冊です。

疾病別のベストセラー

ここからは、よく見られる精神疾患ごとにベストセラーを紹介します。

中には、てんかん発達障害など精神疾患とはいいがたい個人の特性もありますが、こころの不調が伴うことも多く、精神医学の立場からも対処が必要なものです。そのため、以下に加えています。

認知症(アルツハイマー病・血管性・レビー小体型)のベストセラー

認知症は、いくつかの要因により脳の細胞が減少・機能低下することにより、いろいろな症状が現れ日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態をいいます。認知症の人の数は年々増えていて、2050年には、高齢者(65歳 以上)の3人に1人がなると予測されています(1)

社会全体の問題である認知症は、精神医学の知識だけで対処できる問題ではなく、介護に関わる方たちの役割も大きいものです。ただ、早期の診断や合併症への対処では、精神医学への期待もいまだに強いです。

以下では、介護やケアに役立つというよりは、認知症そのものについて学べる2冊を紹介します。

8. 認知症世界の歩き方 認知症のある人の頭の中をのぞいてみたら? 

認知症世界の歩き方 認知症のある人の頭の中をのぞいてみたら?
  • 一般向け
  • ライツ社 (2021/9/15)

暗い気分になりそうな認知症関連の本の中で、本書は「認知症の人が直面するトラブルを異世界RPG風に表現する」という異色のアイデアを打ち出しています。認知症関連の本としては驚異の12万部を売り上げ、新聞各紙で紹介されました。

内容をすごろく型のゲームで体験できる『認知症世界の歩き方 Play!』も公開されています。

慶応義塾大学の研究者が関わっている「認知症未来共創ハブ」が監修しており、内容の信頼性にも一定の評価があります。ただし、65歳未満で発症する「若年性認知症」の記述が中心になっていることには注意が必要です。

9. 認知症―専門医が語る診断・治療・ケア

認知症―専門医が語る診断・治療・ケア
  • 一般向け
  • 中央公論新社 (2010/6/25)

老年精神医学・神経心理学を踏まえて、地域の認知症の実態・支援の研究を続けてきた著者による一般向け書籍です。

第1部で「認知症はどのように診断されるのか?」、第2部で「認知症の種類と、原因別の治療方法」、第3部で「認知症を取り巻く社会的課題」が解説されます。手軽な価格で、ここまでバランスよくトピックを押さえている本は珍しいですね。これからも一般向けの認知症解説本として定番であり続けるでしょう。

統合失調症のベストセラー

統合失調症は「思考や感情がまとまりにくくなる」「妄想や幻覚などが起こる」「意欲の低下や自閉傾向が見られる」などの症状がある病気です。うつ病の倍以上、国内に80万人の患者がいて、100人に1人はかかる可能性があるといわれています。

統合失調症は珍しくない病気にもかかわらず、適切に発見・治療されているとは言いがたいようです。ただ薬や治療法も進歩しているため、適切な知識を得ることができれば治る病気です。以下の本を参考にしてみてください。

10. 家族のための統合失調症入門

家族のための統合失調症入門
  • 対人支援職/一般向け
  • 増補新版(2018/3/24)改訂版(2011/3/19)第1版 (2005/5/21)

本書は、統合失調症かもしれない方の家族の目線で、本人の初診につなげるところから書かれています。偏見も強くなかなか相談しづらい、スムーズに受診まで行きづらい病気のため、多くの家族を助けてきた名著といえます。

2018年の改訂で有効性の高い薬の種類などが追加されたため、まだまだ読み継がれる可能性のある1冊です。

うつ病のベストセラー

うつ病は、言葉としてよく知られてはいますが、精神医学の中でもなかなか難しい病気です。他の病気と見分けたり確定したりすることが困難だと言われています。うつ病に似た症状を見せる病気は多く、別の障害や神経の病、遺伝的要因等が背景にあることも多いからです。

まだまだ不明な部分も多いうつ病では、研究実績がしっかりとある著者の本を選ぶのがおすすめです。

11. 新版 入門 うつ病のことがよくわかる本

新版 入門 うつ病のことがよくわかる本
  • 一般向け
  • 講談社 (2018/5/17) 旧版 (2010/7/10)

うつ病の治療・研究に携わってきた野村総一郎が監修する、うつ病に特化した概説書です。本書は、2010年に旧版が出た後、好評につき新版が発刊されました。イラストやマンガを交え、うつ病についてできるだけ分かりやすく解説しています。うつ病について専門知識を得る場合は、最初に手に取ってほしい1冊です。

本書は「非定型うつ病」(すべてに意欲がなくなるのではなく、楽しいことはできる)や、薬の効きにくい「難治性うつ病」も押さえています。うつ病の治療法は「認知行動療法」が有名なので、「精神疾患の治療法に関する本」の項目も参照してみてください。

双極症(双極性障害、または躁うつ病)のベストセラー

双極症は、気分が高揚して過激な行動をとってしまう「躁エピソード」と、強くふさぎ込む「うつエピソード」が数か月から数年周期で交互に訪れる病気です。かつては「躁うつ病」や「双極性障害」と呼ばれていましたが、うつ病の一種ではなく、治療法もまったく異なることがわかっています。

ベストセラーの中でも、なるべく情報が更新されている本を選ぶと混乱を避けられます。

12. これだけは知っておきたい双極症

これだけは知っておきたい双極症
  • 一般向け
  • 翔泳社(2024/10/17) 第1版(2018/9/20) 第2版(2022/5/19)

本書は、双極症の治療現場に長年携わってきた精神科医・加藤忠史(かとう ただふみ)が執筆したものです。2018年に出版されてから定評を得て、2022年に第2版、2024年に第3版が出版されました。

本書では、双極性に効果の高い最新の薬の種類や、社会生活への影響を少なくする方法がわかります。また、混同されやすい適応障害やうつ病との違いについてもしっかり解説されています。精神科や心療内科で受けた診断に疑問があったら、一読してみるのもおすすめです。

適応障害と強迫症のベストセラー

ストレスにより、体調や内臓の働きなどに異常が出る病気(ストレス関連障害)、あるいは行動に変化が出てしまう病気(身体表現性障害)があります。ここでは精神科の領域とも関わりが深い「適応障害」と「強迫症」に関する2冊を紹介します。

13. 「適応障害」って、どんな病気? 正しい理解と治療法

「適応障害」って、どんな病気?: 正しい理解と治療法
  • 対人支援職向け/一般向け
  • 大和出版 (2021/11/11)

最近、労働環境とともに話題にされることが多い「適応障害」という病気があります。「うつ病に比べて症状が軽い」、「ストレス元を取り除けば6か月以内に回復する」と言われることもありますが、甘く見るのは危険です。適応障害の自殺率はうつ病に劣らないほど高く、早急な対処が必要となります。

ただ、適応障害の診断基準は精神医学の中でも定まっていません。本書では、最新の診断基準でも適応障害の内容が揺れていることを踏まえつつ、2021年時点でわかっている症状と対処法を解説しています。

イラストや図表が多くて読みやすく、100ページという簡潔さも高評価を得ているため、適応障害に関するベストセラーと呼んでよいでしょう。

働きざかりの年代や若者は「適応障害」の言葉を知人から聞くこともあるはずです。正しい知識を経て、身の回りの人たちの危機にいち早く気づけるようになっておきましょう。

14. 強迫症を治す 不安とこだわりからの解放

 強迫症を治す 不安とこだわりからの解放
  • 一般向け
  • 幻冬舎 (2021/9/29)

強迫症は、「家の鍵を閉めたか確認に戻る」「手を洗う」等の行動がやめられず、何時間もそれに費やしてしまう状態をいいます。

本書は、実際に重度の強迫症を経験した精神科医が、強迫症とその治療について記述したものです。特に対処の方針について評価が高く、簡潔で覚えやすいと支持されています(「確認は2度まで」等)。

電子書籍もあるため、持ち歩きにも適しています。

摂食障害のベストセラー

摂食症(摂食障害)は、食事量を極端に減らしてしまう「神経性やせ症(拒食症)」と、食べ過ぎ・嘔吐を繰り返してしまう「神経性過食症」が含まれます。若い女性の発症が多いとされていますが、男女問わず、また年齢に関係なく発症する可能性があります。栄養の失調から死につながることもある、重大な病気です。

治療には内科の知識が必須になるため、内科の知識が豊富な医師の書籍を1冊紹介します。

15. 摂食障害がわかる本 思春期の拒食症、過食症に向き合う

摂食障害がわかる本 思春期の拒食症、過食症に向き合う
  • 一般向け
  • 講談社 (2023/4/27)

本書を監修する鈴木眞理は、摂食障害の治療に長年携わってきた医師です。

鈴木によれば、摂食障害の治療法は1つではありません。「『これぞ』という精神療法はなかなかないので、気長に、本人が困っていることにアドバイスをしながら、コーピングスキル、ストレス対処能力をつける治療をしていく」という立場を持っています。本書でも家族とのコミュニケーションを変化させる方法をとりつつ、本人への声かけの工夫などを解説しています。

イラストや実際のケースを元にした物語仕立ての解説となっていて、医学・化学的知識はほとんど必要なく読める本です。これからの摂食症解説書のスタンダードとなるでしょう。

てんかん

てんかんは、けいれん等を伴う「てんかん発作」が起こる神経の病気です。何らかの原因で大脳の神経細胞が過剰な活動を起こすことによって生じるといわれています。

てんかんを持つ方は、さまざまな精神症状が現れる場合もあるため、精神科外来に関わる場合もあります。精神医学に関連する本として、次の1冊を紹介します。

16. 病気がわかる本 変わる! あなたのてんかん治療

病気がわかる本 変わる! あなたのてんかん治療
  • 一般向け
  • NHK出版 (2018/11/20)

国内初の「てんかん科」を開いた脳神経外科医による、てんかん当事者に向けた本です。

てんかんに関する本はたくさんありますが、ほとんどは医療関係者に向けた本です。しかし中里教授は一般の方に向けたてんかんの本を複数出版しており、知識の普及に努める第一人者といえます。

本書は、ここ数年で劇的に進歩しているてんかんの薬についても詳しく書かれているため、てんかんの診断を受けた方、もしくは周囲の方には必ず役立つ機会がある1冊です。

精神疾患の治療法に関するベストセラー

精神医学では、精神疾患を治療したり、こころの不調をやわらげる方法の研究が日々行われています。現在、病院で実際に行われることがあるのは次の通りです。

  • 薬物療法:対応する薬を使う
  • 電気けいれん療法:全身麻酔を行ったうえで、脳に弱い電気ショックを与える
  • 心理療法:患者が問題の原因に気づき、対処法を自分で考えられるよう手助けする
  • 集団精神療法:同じような病状の方のグループで話し合いをする
  • 家族療法:家族を交えて話し合いをする
  • ほか、作業療法、入院療法など

一般の方にも知識を役立てやすいのは「心理療法」でしょう。薬物療法や電気けいれん療法は、専用施設がないと困難です。心理療法は、特別な道具を使わず自分で取り組めるものもあり、一般向け書籍も多く出版されています。

以下では、医学界の外でも注目を集めた心理療法である「認知療法」と「オープンダイアローグ」に関係するベストセラーを紹介します。家庭や学校現場ですぐに実践できるものもあるので、取り入れてみてください。

17. こころが晴れるノート うつと不安の認知療法自習帳

こころが晴れるノート うつと不安の認知療法自習帳
  • 一般向け
  • 創元社 (2003/3/20)

うつ病や抑うつ気分に有効性が認められている「認知療法」という治療法があります。心に悩みを持つ人が、自分自身の「ものの見方」のクセを知り、ストレスの少ない方向に考えられるようになることを目指す治療法です。

本書には、認知療法を日常生活の中でも使えるようにアレンジするやり方が書かれています書き込み欄があるので、課題に沿って書き進めていくだけで、自分自身の生活に即したノートができあがります。

よりはっきりとうつの症状が出ている場合は、『うつと不安の認知療法練習帳』をおすすめします。こちらも、20年近く前から世界で100万部以上も売れているベストセラーです。

18. まんが やってみたくなるオープンダイアローグ

ープンダイアローグ
  • 対人支援職向け/一般向け
  • 医学書院 (2021/3/15)

オープンダイアローグは、フィンランドの西ラップランド地方にあるケロプダス病院で、1980年代から実践されてきた精神疾患に対する治療法です。近年、NHKのハートネットTVでも特集される(2)など、国内でも注目されています。治療の対象は統合失調症のほかうつ病、PTSD、家庭内暴力など様々です。

本書は、オープンダイアローグそのものの解説に加えて、実際に行う際の手引きが詳しく書かれています。書かれている内容は、企業の中での面談や、学校でのグループワーク、家族での話し合いなどにも通じるものです。本書でも「まずはやってみてください」と、オープンダイアローグの技法を日常に取り入れることが推奨されています。特に産業カウンセラーやスクールカウンセラーなど、話を聴くことが多い仕事の方には、ためになる1冊です。

漫画は、精神科の看護師として勤務した経験のある水谷緑が担当していて、細かな配慮が行き届くと同時に迫力のある作画となっています。

精神疾患の治療薬についてのベストセラー

基本的に、精神疾患の薬について解説する本は専門家に向けて書かれています。ただ、薬を処方される側の一般の方も情報を得ることはできます。

薬の副作用やよくない利用の仕方を知っておきたい方は、以下の本が定評があります。

19. 精神科の薬がわかる本

精神科の薬がわかる本
  • 医療従事者向け/対人支援職向け
  • ‎医学書院 (2024/2/13)

精神科で使われる薬について、解消する症状や作用する仕組みを解説した本です。

心理学とは異なり、精神医学は薬とその作用についての蓄積を持っています。ただ、薬による治療は万能ではなく、依存性や副作用など問題を引き起こすこともあります。本書は、どのような場合に、どんな量や頻度で薬を使った治療を行うべきか、各症状別に詳しく解説されています。

精神科でもらった薬をよくわからずに飲んでいるというかたは、本書に目を通してみると安心できるかもしれません。

発達障害のベストセラー

「発達障害」は、主に自閉スペクトラム症(ASD)注意欠如多動症(ADHD)学習障害(LD)の三つがあります。これら3つの特性は、同じ人に複数現れていることもよくあります。

発達障害は「生まれつきの脳機能の特性」のことであり、そもそも病気と言えるかは微妙なところです。発達障害を治したり完全に消してしまうことは難しいとされていますが、精神医学の分野でも様々な研究が進められています。併発しやすい精神疾患、薬によって生活を改善する方法、周囲の人間関係やコミュニケーションの取り方の工夫などです。

以下では、発達障害の中でも注目度が高い「自閉スペクトラム症」(自閉症スペクトラム障害)についてのベストセラーを紹介します。

20. 自閉症スペクトラム 10人に1人が抱える「生きづらさ」の正体

 自閉症スペクトラム 10人に1人が抱える「生きづらさ」の正体
  • 対人支援職向け/一般向け
  • SBクリエイティブ (2013/3/16)

自閉症スペクトラム障害」は、もともと「自閉症」「アスペルガー障害」等と別々の障害と考えられていたものを、ひと繋がりの障害の段階として総称するものです。2013年5月に、精神科医の使う診断基準であるDSMの中に記載されました。本書『自閉症スペクトラム』は、世界に先駆けて国内にその名前を浸透させた影響力の大きな本といえます。

少し専門的な内容も入っており、同障害の概要から二次的に発生する問題など、短いながらも網羅性が高いことが特徴です。

どちらかというと思春期以前の支援に焦点が当てられているため、育児に悩む方にも参考になる1冊です。

精神科医・看護師による名エッセイ

精神科で働く精神科医、あるいは看護師のエッセイは、近づきがたい印象のある精神医学の世界を身近に見せてくれます。

もしかすると、上に紹介した本よりも心打たれる一文に出会えるかもしれません。

21. 世に棲む患者―中井久夫コレクション

世に棲む患者―中井久夫コレクション
  • 一般向け
  • 筑摩書房 (2011/3/9)

精神科医・中井久夫のエッセイ集です。

詩にも通じていた中井久夫の文章は、軽妙で美しく評判が高いです。本書では、統合失調症やその境界例の方と、中井のコミュニケーションの記録が多くを占めています。一般の家庭で実践に役立てるのは難しいかもしれませんが、ひとつの物語として読むことができます。

病気に罹ってしまったというのは一つのマイノリティになるということですが、「マイノリティとしての患者がどう生きていくか」を中井が自分なりに示した本であるともいえるでしょう。

22. 傷を愛せるか

傷を愛せるか
  • 一般向け
  •  筑摩書房 (2022/9/12) 単行本:大月書店 (2010/1/1)

文化精神医学・トラウマ研究の分野で著作がある宮地尚子のエッセイ集です。自身のアメリカ滞在経験や、海外の映画を題材に、ゆっくりとしたテンポで「傷を負って生きること」について語ります。

新しい世代の精神科医のエッセイとしては珍しく、文庫化もされています。歴史や文学に広がりを持っている一冊として、長く愛されることでしょう。

23. それでも人生にイエスと言う

それでも人生にイエスと言う
  • 一般向け
  • 春秋社 (1993/12/13)

著者のヴィクトール・エミール・フランクルは、オーストリア出身の精神科医です。第2次世界大戦下でナチスの収容所に送られ、その日々の記録を『夜と霧』という書物で発表したことで有名です。

『それでも人生にイエスと言う』は、フランクルが自らの人生論を広く説明した講演が元になっています。収容所体験を経た彼は、重大な困難にさらされたとき、どのように考えたら生きることを諦めずにいられるかを考え続けてきました。彼は「人生に意味があるか」という問いは間違っており、「人生のどのような仕事が自分を待っているか」と考えればよいと主張しています。

語り口調の比較的読みやすい本なので、困難に直面している人にこそ勧めたい一冊です。

24. 精神科ナースになったわけ (コミックエッセイの森)

精神科ナースになったわけ (コミックエッセイの森)
  • 対人支援職向け/一般向け
  • イースト・プレス (2017/4/17)

会社員から精神科の看護師に転職した水谷緑によるエッセイ漫画です。著者は、母親の死を経験して心の不調を覚え、「こころの病」に興味を持つようになり精神科で勤務を始めます。

物語では、精神科病院の内部事情関わってきた患者の姿が素直な筆致で描かれます。患者の方に接するうちに、著者自身の持っていた考えや感じ方が変わっていくのが見どころです。一見、突飛に見える行動にも必ず理由があるのだと、著者は患者の方に寄り添って理解していきます。

精神科の毎日を著者が愛していることが伝わってくる、温かい作品です。

精神医学の歴史を知るベストセラー

「こころの不調や障害に対する偏見の改善」というメリットを得るなら、精神医学の歴史を知ることはどうしても必要です。歴史を知ることで、現在に至るまでの精神疾患への偏見の原因を考える準備ができるからです。

精神医学という言葉がなかった時代には、こころの不調をあらわす人が犯罪者の予備軍とみなされ、監禁されたり街から追放されたりしていました。今では「こころの不調」は病気とみなされて医師のもとに行くことが期待されますが、それは遡っても過去200年くらいのことです。過去にどうしてそんな排除が起こっていたのか、精神医学はその排除をどうやって変えてきたのかを知ることが、精神医学の歴史を知ることです。以下ではそのために最適な1冊を紹介します。

25. 精神医学の歴史

精神医学の歴史 (レグルス文庫)
  • 一般向け
  • 第三文明社 (2005/5/1)

精神医学の歴史について、文庫本サイズでコンパクトにまとめた本です。精神医学の入門書では省略されがちな、中世における精神疾患の捉え方が言及されているのも特徴です。

出版年が少し古いため、2000年以降の状況はフォローされていません。この記事で紹介した『教養としての精神医学』もあわせて読むと、より理解が深まります。

精神医学のベストセラー本で得られるメリットとまとめ

膨大な数の精神医学の関連書の中から、ベストセラー25冊を紹介しました。

精神疾患や関連する障害については、さまざまな偏見が強く、それ自体が患者を苦しめることもあります。しかしその分、精神疾患や関連する障害について知ることだけでも意義があると強調している精神科医も多くいます。

精神医学のベストセラーに触れて、自身や身近な人のこころの健康を守っていきましょう。


(1)  「認知症施策推進総合戦略 (新オレンジプラン) ~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~」概要 (平成27年1月27日、厚生労働省)による。

(2) 精神医療は今(2)対話による治療「オープンダイアローグ」 – ハートネットTV – NHK

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