「哲学の名著」12選! 難解書を読むコツも解説
この記事では、古典から現代までの西洋哲学の名著を10点、加えて東洋哲学の名著を2点紹介します。
また記事後半では、哲学の名著を読む際に役立つ知識もお伝えします。
「代表的な哲学の名著は?」「名著の挫折しない読書法は?」などが気になる方は必見です。
どうして哲学の名著を読む?
哲学の名著は、どうして世界中で読まれているのでしょうか。
それは、読んだ人に大きな気づきを与えてきた実績があるからです。
例えばその気づきは「不幸や苦しみへの対処法」や「現代の科学や政治制度の根本理解」といったものです。それがもとで、人の一生が変わることや、新しい国や制度が考案されることさえあります。
不幸や苦しみへの対処法がわかる
いつの世の中にも、不幸や苦しい経験をする人はいます。そんな人に、哲学の名著はヒントや慰めを与え続けてきました。
哲学者たちは「人間社会がどうすればよくなるか」を考えるのが仕事だったので、死や病気、孤独、仕事、お金など多くの人がもつ共通の悩みについてよく観察しているのです。
また、ときには哲学者自身が苦しい思いをし、自分なりに乗り越えた気持ちを名著に込めています。
例えばプラトンや孔子は政治家になる夢に挫折し、パスカルは持病に苦しみ、カントは就職に苦労していました。マルクスはいつもお金がなく、知人から金を借りて図書館で勉強していました。そんな苦悩の中で、彼らは自分の考えを修正しつつ本を書き上げていきました。
哲学の名著を読めば、哲学者たちの思いに共感でき、悩みに対処するヒントが見つかるかもしれません。
現代の科学技術や政治制度の根本がわかる
私たちが生きる現代の社会は、日々移り変わる科学技術や政治制度に取り巻かれています。これらを本当に「わかっている」と自信を持てる人は少ないでしょう。
だから、つい専門家や有名人が言っていることを信じてしまう……2020年以降のコロナウイルスまん延の際にも、そんな経験がなかったでしょうか。
哲学の名著を読むと、現代の科学や政治制度の根本がわかり、表面的な変化に惑わされなくなります。現代社会の根本は昨日今日で変わるものではなく、千年以上にわたる哲学者たちの発想の積み重ねだとわかるからです。
例えば、哲学がなかったはるか昔は、国家という考え方や、個人が財産をもつという発想自体がありませんでした。
そこで哲学者たちが「国というのをしっかり作った方がみんな幸せになるのでは?」とか「個人の財産がちゃんと守られるようなルールを決めるべき」等と考え、世の中に提案したから、そのような発想が広まったのです。
また、私たちの社会で利用されている科学技術は「仮説を立て、実験を繰り返して証明する」という手続きがあってはじめて利用できるようになります。
その科学の手続きを考え出したのも、実は哲学者たちです。
哲学の名著は、今の世界を支える根本的な仕組みがどう生まれたのかを教えてくれます。それを理解すれば、表面的な情報に踊らされずに済むようになります。
あなたは、哲学の名著に何を求めているでしょうか?
以下の名著の紹介を手がかりに、自分の目的に近い哲学書を選んでみましょう。
西洋哲学の名著
全10点の名著を、書かれた時代順に紹介していきます。
本記事では、以下のとおり4つの時代に区分します。
(※内容により、別に振り分けた名著もあります)
- 古代ギリシャ(紀元前5~4世紀)
- 中世(紀元後5~15世紀)
- 近代(16世紀~19世紀初頭)
- 現代(19世紀後半~)
古代ギリシャ哲学の名著
西洋哲学が大きく発展したきっかけは、紀元前5世紀から4世紀の古代ギリシャの都市(現在のバルカン半島の南端と付近の島)で、数名の学者が書物を残したことでした。
その後、西洋の人々はこれらの書物をほとんど失ってしまいますが、ほぼ千年越しにこれらの古代の哲学を再発見し、近代の哲学に生かしました。
そして2500年の時を経た現在では、これらの書物は世界中で読まれるようになっています。
1.プラトン『ソクラテスの弁明』
- 全1巻
- 出版社:光文社ほか
- 原典の書かれた時期:紀元前4世紀ごろ
世の中に「哲学」の重要性を訴えた物語
西洋哲学の始まりを作ったといわれる哲学者プラトンの著作です。
この本は、プラトンの先生であるソクラテスが裁判にかけられる衝撃的な場面から始まります。
ソクラテスは、日ごろから若者と議論していたのを「若者を堕落させる考えを広めている」と見なされ逮捕されたのでした。
彼は、若者と行っていた「哲学」は人間にとって重要であり、社会全体に対してプラスになることだと説明し、裁判官に分かってもらおうとしました。
しかしソクラテスの弁明は裁判官には受け入れられず、死刑判決を下されてしまいます。
ソクラテスはそれを受けてどうしたのか。物語の終わり方にも注目です。
他にも20以上あるプラトンの著作は、ほとんどがソクラテスが主人公の会話劇になっています。
プラトンの著作が2500年以上読み継がれてきたのは、読み手をひきつける物語としての魅力にもあるのかもしれません。
2.アリストテレス『ニコマコス倫理学』
- 全2巻
- 出版社:光文社ほか
- 原典の書かれた時期:紀元前4世紀ごろ
現代にも通じる幸福論にして正義論
プラトンの弟子であるアリストテレスの著作です。
アリストテレスは、プラトンと同じく「よく生きる」とはどういうことなのかをこの本で追求しました。
例えば、アリストテレスは中庸(メソテース)という概念を提唱し、どんな状況においても極端な行動を避けるべきだと主張しました。
他にも水平的公平と垂直的公平の違いなど、政治や経済を考える上で今でも必須の問題を議論しています。
中世哲学の名著
西洋哲学の中でも、中世と呼ばれる時期の哲学はキリスト教の教えに基づくものがほとんどです。
しかし、キリスト教について興味がない人にも響く名著もあります。ここでは2つ紹介します。
3.アウグスティヌス『告白』
- 全3巻
- 出版社:中央公論新社
- 原典の書かれた時期:西暦397-398年
「キリスト教で人生変わった」 感動のドラマ
アウグスティヌスは古代と中世の間を生きたキリスト教の学者で、中世のキリスト教の教えの基本を作りました。
『告白』は、キリスト教にあまり興味がなくても読める中世哲学の貴重な1冊です。とくにその前半部分は、一人の人間が自らの過去を反省し劇的に変わっていくドラマとして感動的なものだからです。
もともとアウグスティヌスは、キリスト教のことを何も知らずに暮らしていた人でした。しかし30歳になった頃キリスト教の教えを知り、彼は変わります。それまで働いてきた悪行を思い出して深く反省し、以後キリスト教の研究に邁進します。
この本の中で語られるエピソードで有名なのは、アウグスティヌスが幼い頃、食べるためではなく友達とふざけるために、近くの家で梨を盗んでいた話です。そんなことまで彼は赤裸々に振り返り、自分がどのように悪く流されやすい人間だったかを反省しています。
もともとキリスト教徒ではなかった人も、深く反省して自分の弱さを認めれば、神は必ず救ってくれる。そのようにアウグスティヌスは当時のキリスト教をアップデートし、これが後のカトリック教会の基本的な発想になったのです。
4.パスカル『パンセ』
- 全1巻
- 出版社:中央公論新社ほか
- 原典の書かれた時期:17世紀中ごろ?(死後出版)
鋭い人間観察と神の問題が同居する
数学や自然科学の研究者として重要な業績を残したパスカルが、個人的に書き留めたノート集です。
「神がいるとしても、いないとしても、神を信じるほうがよい」という「パスカルの賭け」が登場するのもこの本です。
ただ、神やキリスト教の教えだけではなく、俗っぽいテーマについてもたくさん語っています。人付き合いの悩みやお金に関することなど。かなりの毒舌を発揮しているので、後にそのトガり具合をニーチェが称賛したほどです。
一つ一つの節は短いので、枕元に置いて寝る前に2~3節読むということもできますよ。
近代哲学の名著
私たちが当たり前だと思っている科学技術や国家、民主主義などの基本はすべて近代の哲学者たちが広めたものです。
この時期に活版印刷も普及したため、世界の歴史を変えた書物がたくさんあります。
5.デカルト『方法序説』
- 全1巻
- 出版社:岩波書店ほか
- 原典の出版時期:1637年
絶対確実なものを追求する若者の記録
デカルトは「近代哲学の父」と呼ばれるフランスの偉大な哲学者です。
デカルトはこの本の中で、自分がこれまでどういう人生を送って、どう考えるようになったかを語ります。
デカルトは10歳からカトリック系の伝統校に入り、あらゆる学問を修めました。しかし彼は、数学以外の学問は決めつけが多くて、どうにも信用ならないという思いを持っていました。彼は学校を卒業した後、軍隊に参加するなど様々な人生経験を積みます。そうして、信用に値するのは、すべてを疑ってもなお残る「自分の意識」だけだと気づきました。そこから、絶対確実なものを求めるデカルト独自の発想が生まれてきました。
デカルトの発想は近代に生きた他の多くの学者に影響を与え、物理学や数学の基礎が作られていきました。
ちなみにこの本は、学者以外の人も広く読めるようにという思いで短めにまとめられています。近代哲学の中では挑戦しやすいものでしょう。
6.ルソー『社会契約論』
- 全1巻
- 出版社:光文社ほか
- 原典の出版時期:1762年
民こそが主役と論じた画期的な本
フランス革命に影響を与えたともいわれる1冊です。
ルソーは、国家がまったくなくそれぞれの人が勝手気ままに生きている「自然状態」を仮定しました。そのような状態でずっと争ったり困ったりしていると、やがて人は結びついて協力し合うようになります。そうして、いわば大きな一人の人間のようなものとして国家ができます。
ルソーが独特だったのは、国家ができて王様や議員が決まったとしても、あくまでそこに所属する「普通の人々ひとりひとりの考え」が大事だと主張したことです。これは、人民が国家の行き先を決めていくべきだという発想につながりました。
ルソーの理想とする国家は、つねに所属する人たちが自分自身の考えを直接反映する形で運営していくものでした。したがって、彼は直接民主制がよいと提案しています。選挙や間接民主制を採用している現代の多くの国家について考えさせてくれます。
7.カント『純粋理性批判』
- 全7巻
- 出版社:光文社ほか
- 原典の出版時期:1781年、1787年(第2版)
近代科学と道徳を方向づけた大著
カントはドイツで活躍した哲学者です。彼の著作の中で、最も影響力が強かったのがこの書物です。
カントは、「世界の本当の姿は誰にも完全にはわからない」と考えました。ただし、人間は「時間」「空間」という共通する世界の捉え方を持っているため、【数学やそれを元にした学問の中では】、だいたい確実な答えを出すこともできるだろう、とも主張しました。
ただ、カントによれば「どのような生き方が幸福か」等、数学的に測れない問題については、確実な答えはわからないのです。なぜなら人類全員に共通する幸福の捉え方はないからです。だから彼は、できるだけ誰も不幸にならないような最低限の決まりを見つけようともしました。
カントは以上のように考えることによって、当時の科学にお墨付きを与えるとともに、「幸福」をベースに考えてきた従来の道徳に待ったをかけたのです。
現代哲学の名著
近代になると、西洋ではキリスト教の存在感が薄れてきました。物理学など近代科学が発展し、神なしでも様々な自然現象を説明できるようになったからです。それに伴って、キリスト教から離れようとする様々な新しい思想が現れます。
哲学者の活躍する国や学者の派閥も多様になりますが、ここでは厳選した3人の名著を紹介します。
8.マルクス『資本論』
- 全2巻
- 出版社:筑摩書房
- 原典の出版時期:1867年
資本主義は必ず壊れる?! 現代の社会主義国のルーツ
マルクスは、ドイツの哲学者・経済学者です。彼は、古代から現代までの社会の変化をお金や価値という視点から記述しました。
そして、現代の資本主義はそれ自身の抱える問題によって崩壊に至ると予想しました。また、資本主義を乗り越えた次の社会はどうあるべきか考察しました。
マルクスの本は非常に影響力が強く、その思想を受け継いだ人々が20~21世紀にかけて世界中で多くの国(共産主義・社会主義国家)を作りました。現在まで残っている国はわずかですが、人々に大きな期待を与えた名著であったのです。
9.ニーチェ『道徳の系譜学』(道徳の系譜)
- 全1巻
- 出版社:光文社ほか
- 原典の出版時期:1887年
他人に同情してはならない?
ニーチェはドイツ周辺で活躍した作家・哲学者です。
彼はこの本で、プラトンからキリスト教に続いてきた西洋哲学の道徳について、それがどうやって成立したかを文献から追っていきました。その結果、彼には、同情や自己犠牲に価値を置く従来の道徳は偏ったものであると思えたのです。
ニーチェは、もっと自分自身の喜びにフォーカスした「よい」・「わるい」の考え方があったのではないかと強く訴えます。
彼は生きていた19世紀ではあまり評価されませんでしたが、ハイデガーなど次世代の哲学者たちに感銘を与え、強い影響力を持ちました。第二次世界大戦で悪名高いナチス・ドイツも、ニーチェに注目していたといわれています。
10.ハイデガー『存在と時間』
- 全4巻
- 出版社:岩波書店ほか
- 原典の出版時期:1927年
存在の意味から生き方を考える
ハイデガーは、20世紀を代表するドイツの哲学者です。元は古代ギリシャ哲学の研究者でしたが、独特の語り口で大人気の哲学者になりました。
ハイデガーは、それまでの西洋哲学が「存在」の本当の意味について見落としていたと主張しました。
彼によれば、「存在」は、はじめから「○○である」という固定された形(存在者)で私たちのもとにやってくるのではありません。人間の目的や関心によって、存在者になるのです。
例えば、美術館に飾られている絵は鑑賞するべきものですが、ときには、モノを抑えておく重石として使うこともあります。モノに対して目的や関心を持てる人間のうちにこそ、「○○である」を作る作用=存在そのものが隠れているとしたのです。
こういう発想は、それまでの西洋哲学にはなかった独創的なものでした。
ただ、目的・関心=「~のため」を気にしすぎる人は、常に人とのおしゃべりにかまけて、目の前の人や物にとらわれる「世間のひと(ダス・マン)」になってしまいます。
ハイデガーは、いつか訪れる「自分の死」を、目的・関心を断ち切る限界だと考えました。そして、自分の死を見据え、自分自身が何をするべきか考え直そうと主張します。
独自の哲学を立ち上げ、生き方の問題にも接続していくハイデガー哲学。この魅力に今も多くの人が夢中になっています。
東洋哲学の名著
先述のように「哲学」は西洋で発展しました。しかし、アジア地域にもたくさんの伝統的な思想があります。この記事では、日本にも甚大な影響があった古代中国の名著を2つ紹介します。
1.孔子『論語』
- 全4巻
- 出版社:中央公論新社ほか
- 原典の成立時期:紀元前5世紀頃(諸説あり)
東アジアの道徳の基本
孔子(こうし)という宗教家・学者と、弟子の言葉を記録した本です。
非常に簡潔な書き方がされていて、成立した当時から註解(原文の解釈を書いたもの)が多数の人によって書かれていました。
日本でも古くから研究されていて、特に江戸時代から明治にかけては、当時の政治経済を学ぶ人たちの心構えとしてよく読まれました。渋沢栄一が『論語と算盤』という考えを持っていたのは有名ですね。
孔子に由来する表現は日本語の熟語としても根付いています。例えば「不惑」(40歳のこと)とは、もともと孔子が「40歳になって思い悩みがなくなった」と言ったことからできた表現です。
ほかにも「先祖を大切にすること」など、東アジアの各国にゆるく共有されている価値観が説かれています。
2.『孫子』
- 全1巻
- 出版社:日経BPマーケティングほか
- 原典の成立時期:紀元前5世紀
戦わずして勝つ戦争論
孫武(そんぶ)という軍事思想家が記したとされる、戦争のやり方についての本です。
この本は戦争論としてはちょっと変わっていて、「実際に戦わないで済むならそのほうがいい」という基本路線で書かれています。なぜかというと、人やモノがむやみに消費されるのをよしとしないからです。
実際に戦う場合も、どうやって自国の被害を最小限にするかが優先されます。
近年は『孫子』を会社経営やスポーツに応用した本も多く出ています。
ベストセラーになった例としては、次の本があります。
名著に挑戦する際の3つのコツ
実際に哲学の名著を読もうと決めても、挫折してしまう人はたいへん多いです。
なぜでしょうか? 原因は3つあると考えられます。
- 出てくる言葉や漢字が難しい
- 興味がない部分を読もうとしている
- 登場人物や著者の常識が理解できない
すると、次の3点のコツを意識すれば挫折を避けられるでしょう。
順に解説していきたいと思います。
- 1.読みやすい訳書を選ぶ
- 2.興味があるところから読む
- 3.予備知識をつける
1.読みやすい訳書を選ぶ
哲学の名著は、日本語に訳された時期によって複数の訳書があります。
元は同じ本でも、読みやすさがかなり異なります。30~40年前に訳されたものは、言い回しが難しかったり解釈が古かったりする場合も多いです。
基本的には、新しい時期に訳された本のほうが読みやすいでしょう。古めかしくて難しい表現でつまづかないように、今の自然な言葉に合わせてあるからです。
Point①
新しい時期に訳された本を選ぼう
※上に挙げた名著は、2024年時点で新しく評判も固まっている訳書を掲載しています。
※「抄訳」や(抄)とある訳書は、元の本から抜粋されたものです。完全な内容ではないことに注意。
2.興味があるところから読む
哲学の名著は長いことが多く、カント『純粋理性批判』は解説も含めて7冊もあります(!)
しかも1章から宇宙の始まりの話が続くので、その問題に興味がなければ読むのが嫌になってしまいます。
また、内容が突然難しくなる本も多くあります。
例えばアウグスティヌス『告白』は、著者の半生の部分が終わると神についての議論に入り、急に難しくなります。
それならまずは前半だけ読んで、一旦終わりにしてもいいのです。
Point②
聞いたことがある言葉を探したり、
興味があるところから読もう
「頭から終わりまで一文字も漏らさず読まなくては」と気負わなくても大丈夫です。近年訳された次の本でも、本の新しい読み方を提唱しています。
- 『読んでいない本について堂々と語る方法』
著者も指摘するように、専門家でも、本の前評判を聞いたり、目次だけ目を通して「読んだことにしている」場合もあるのです。
読めるところから気楽に読んでいきましょう。
3.予備知識をつける
哲学者が生きた時代や社会の予備知識を持つと、名著が読みやすくなることが多いです。
哲学者の多くは、現代日本の私たちとはかなり違った時代や社会に生きていました。
すると彼らの常識は、私たちの常識とは異なっているところもあります。彼らの著作を読むと、外国に行った時のようなカルチャーギャップを感じることが多いのです。
Point③
哲学者たちの生きた時代や常識を知って、
カルチャーギャップを解消しよう
以下では、哲学者たちの時代や生涯に関する本も紹介していますので、参考にしてみてください。
名著に挑戦するのを助けてくれる本
哲学の名著を読む助けになる本はたくさんあります。様々な角度から哲学者や関連分野を知っていくうちに、哲学の名著が読みやすくなるでしょう。
哲学史を知る
哲学者たちがどのような順序で現れ、ときに対立してきたか(=哲学史)を知ると、それぞれの著作が理解しやすくなります。
ソフィーの世界
- 全2巻
- 価格:1000円+税
- 電子書籍・Audible版あり
1991年にノルウェーで出版されたファンタジー小説で、物語を楽しみながら哲学史が頭に入ってくる名作です。
世界50か国以上で訳され、2300万人の読者がいるといわれます。なかなか長編ですが、上下巻に分かれた新装版も入手できます。
史上最強の哲学入門
- 価格:740円+税
- 電子書籍・Audible版あり
「絶対的な真理なんてホントウにあるの?」等、いくつかの対立を作って哲学者たちを議論させる形で紹介を行っています。
哲学の名著にも、明らかに「対戦相手」への批判として書かれたものがあります。
「著者の立場は何で、何を対戦相手とみなしていたか?」と考えるようにすると、名著の理解が進むことがあります。
ちなみに東洋哲学版もあります。
文化と宗教を知る
前述のように、西洋哲学は古代ギリシャ人が作ったものを元に、キリスト教の影響下で現在まで続いています。
したがって、古代ギリシャ世界とキリスト教について知識をもつと、名著の理解の助けになります。
ヨーロッパ思想入門
- 価格:990円+税
このコンパクトな新書は、古代ギリシャとキリスト教が哲学をどう左右したかを解説した名著です。
写真や絵画を使いながら当時の文学や美術作品も解説しているので、海外旅行気分で楽しく読むことができます。
反哲学入門
- 価格:630円+税
著者は「日本人には(西洋)哲学がわからなくて当然だ」と述べています。だって多くの日本人は、小さいころから古代ギリシャの文化やキリスト教に触れてきたわけではないのだから、と。
だから著者は発想を転換して、それまでの西洋哲学が大きく変わったニーチェ以後の哲学=「反哲学」の視点から、哲学史を見ていくのはどうかと提案します。
西洋哲学者たちの伝統的な発想は、現代の日本人からするとかなりヘンなものです。著者はそのヘンさを、勢いのいい語り口でズバズバと解説していきます。
日本人の視点から古代ギリシャとキリスト教の発想を評価する、一風変わった哲学入門といえるでしょう。
伝記・エピソードから入る
古代史や宗教といった大きな話をされても、あまり興味がわかないこともあります。
そんなときは、哲学者の生涯やプライベートな話から入るのはいかがでしょうか。
哲学者も一人の人間として悩みながら生きていたのを知ると、その時代の人々も含めて親しみが持てるかもしれません。
恋におちた哲学者
- 価格:1,300円+税
現代の哲学者6人が経験した恋愛模様を短い漫画で紹介しています。
読み終えると、近づきがたい印象のあるハイデガーやニーチェに対する印象がだいぶ和らぐのではないでしょうか。彼らも失恋して悩んだり、人と喧嘩したりする一人の人間だとわかります。
巻末には、デカルトやマルクスの周りにいた女性についても短いコラムがあります。マルクスが当時の貴族の令嬢と遠距離恋愛をしていた等、文献に基づいて意外な事実が明かされています。
時事問題から入る
時事的な問題を取り上げた本から、哲学者の考えに触れることもできます。
マスコミやSNSで世間を騒がせるような話題に関心があれば、以下の2冊がおすすめです。
ハーバード白熱教室講義録+東大特別授業
- 全2巻
- 価格:700円+税
- 電子書籍あり
政治哲学者のマイケル・サンデルが、ハーバード大学で学生と議論をしながら行った講義の記録です。
あくまで学生に考えさせ、次々と発言を引き出していくサンデルの講義はスリリングです。講義のテーマは「正義」ですが、この記事で挙げた哲学の名著と深く関わる内容になっています。
例えばサンデルは、講義の終盤でアリストテレスの『ニコマコス倫理学』を取り上げ、その幸福論を現代社会に応用したらどうなるかを解説します。また、私たちの直感とはかなり距離がある、カントの独特な道徳哲学についても、思考実験を通して解説してくれます。
兵役の義務、大学入試、所得の再分配など時事的な話題に興味がある人は、きっと読みとおすことができる名講義といえます。
新版 現実をみつめる道徳哲学
- 価格:2,500円+税
サンデルの講義録を読んだ方にはこちらもおすすめです。
安楽死・同性愛・中絶・動物の権利・死刑制度などの問題を論じながら、哲学者の考え方について学べます。
そもそも文化ごとに何が善い・悪いかの考えはそれぞれなのではないか? という立場(文化相対主義)もあるでしょう。しかし、著者のレイチェルズはそれでは不十分だと反論します。その内容については第2章で確かめてみてください。
まずは日本語で哲学する
横文字が苦手で、いきなり学者たちの名前にたくさん接するのはちょっと……という方は、日本人の哲学者が書いた本で、哲学の定番問題を予習するのがおすすめです。
哲学の謎
- 価格:880円+税
- 電子書籍あり
「自分が死んだら世界はどうなる?」「他人に意識があるとなぜわかる?」等、哲学でたびたび出てくる問いについて、対話形式で考えを深められる本です。
哲学者の名前は出てこないので読みやすく、名著の予習ができる優れた入門書といえます。
じぶん・このふしぎな存在
- 価格:880円+税
- 電子書籍あり
エッセイのような独特の調子で、著者は「自分」というつかみどころのないものについて様々に語っていきます。
とくに現代の哲学に興味がある人におすすめです。逆に、デカルトやカントに挑戦する人にはあまり向かないかもしれません。
人生論ノート
- 価格:490円+税
- 電子書籍あり
- 本文はWeb上で無料公開
1954(昭和29)年に発行されて以降、100刷以上を数えるロングセラーです。
当時の社会や、死の恐怖、嫉妬など身近な感情にひきつけながら、かみ砕いた形で語る哲学エッセイです。
パスカルの『パンセ』を意識しているような雰囲気もあります。ピンとくる一節や、気になる人名にきっと出会えるでしょう。
ちなみに本文は著作権が切れていて、「青空文庫」で無料公開されています。
https://www.aozora.gr.jp/cards/000218/files/1914_63525.html
まとめ
哲学の名著と、名著に挑戦する際のコツをご紹介しました。
どれも答えの出ない問いを徹底的に追求した本ばかりで、読むハードルも高いです。でも一度読んでみると、必ず何か得られるところがあると思います。
現代社会のことがよくわからないと思うとき、不幸や苦しいことに直面しているとき、哲学の名著は悩みを解決するヒントをくれるはずですよ。
※本の価格は紙発行版、2024年11月時点のものです。