竹本健治さんのお宅訪問!|第11回 千澤のり子 エッセイ

(編集者より)前回の「ひかわ玲子先生のお宅訪問!」に続く第2弾、今回は同じくミステリ作家である竹本健治先生宅へのご訪問記です。どうぞお愉しみ下さい。


 夏休みに、竹本健治さんのおうちに遊びに行きました。
 竹本さんといえば、この道40年以上の大先輩で、四大奇書のひとつ『匣の中の失楽』を書かれた伝説の作家です。数年前から佐賀県武雄市にお住まいになっています。
 初めて出会ったのは、今から十数年前、何かの懇親会の場でした。当時は探偵小説研究会に入ったばかりで、頼りになるのは評論家の蔓葉信博さんのみ。まごまごしていたら四人席に通されました。
一名は知っている方だけど、ビビります。ほかのお二人はどなたなのだろうとお名前をお聞きしたら……。
(このままじゃ、私、死んじゃう……)
 とにかくお酒をたくさん飲みました。目の前にいらっしゃった竹本さんは、どこの馬の骨だか分からない人間にも、たくさん話しかけてくださいました。なのに、私は何を話したのか覚えておらず、気付いたら解散までトイレの前で座り込んでいました。蔓葉さんからはかなり心配をされましたが、「大丈夫、大丈夫~」と全然大丈夫ではない状態で、ありえない時間をかけて帰宅できたことを覚えています。
 その後、竹本さんとmixiの相互登録を経て、囲碁に興味を持ち、日本推理作家協会の囲碁同好会に入会させてもらってからずっと私のお師匠さんであります。
『囲碁殺人事件』をはじめとする少年囲碁棋士・牧場智久シリーズを書かれているように、竹本さんはすごく囲碁がお好きで、とても強い方です。アマ八段くらいあります。囲碁盤すら見たことがなかった私は、竹本さんのおかげで現在は9級くらいになることができました。
 緊張のあまり、いただいたメールにはお返事ができず、お仕事場で習うときは最寄り駅まで行くことができずと、習い始めた当初は大変失礼な態度をとっていました。徐々に慣れ、竹本さんが佐賀県にお引っ越しされる頃には、ドラマの再放送が流れるお仕事場でコンビニお菓子を食べながらおしゃべりするのが、私の日常になっていました。
 現在は年に何度か上京されるたびに、共通のお友達である翻訳家・夏来健次さんとご一緒に3人か、別のお友達も呼んで4人で、お茶やご飯をご一緒させていただいています。
 今回の旅の行程は、二泊三日。二日目の午後は観光と奥さま主催の講演会のお手伝いをしましたが、ご飯や近くの温泉に連れて行ってもらう以外、ほとんど囲碁です。真夜中でも囲碁です。
「勝ったら3級もらうんだぁ」
「2級でいいですよ」
 ご自宅は、日本庭園が見事な平屋造りで、リビングは森林とタバコとコーヒーの匂いが入り混じっていました。囲碁を行う客間はアンソロジー『謎々 将棋 囲碁』に収録された拙作「黒いすずらん」のイメージそのままです。
竹本健治先生ご自宅
 竹本さんほど良い方はいないというくらいとてもお優しい方なのですが、囲碁のときは容赦しません。
「ひどい!」
「え?」
「そこは私が置こうと思ったんです」
「えー、そんなこと言われても」
「まただ!」
「うふふ」
「ちょっと、なんてことするんですかっ!」
「おお、怖っ(笑)」
 自称・愛弟子の態度とは思えません。でも、普段は『2017本格ミステリベスト10』のロングインタビューのように、ほのぼのとしています。
(東京帰りたい)
(もう帰る)
(このままじゃ帰れない!)
 局を重ねるにつれて、このように思っていたことは内緒です。
 一緒に行った弟子仲間は、13子置かせてもらって竹本さんに勝っていました。9子置かせてもらった私はすべて惨敗です。結局、2級にはなれませんでした。
 囲碁の後は二泊とも朝までおしゃべりしました。『涙香迷宮』で神業を見せた竹本さんの趣味の一貫である「いろは」のオリジナル・パネルを見せていただいたり、学生時代に描かれた同人漫画を読ませてもらったりしました。

(パネル)
螺旋階段
(同人漫画誌『螺旋階段』)
 書庫は、天井まである本棚が三面、二列では収まりきらず、床にも腰の高さまで積んであります。お仕事部屋は三面本棚と山のようなDVD。さらに、廊下の一角にも蔵書スペースがあり、二面天井までの本棚がありました。ここの家の子になりたいなあと心底思いました。
 竹本さん、とっても楽しい旅を、ありがとうございました。次にお伺いするのは、来年の秋頃になりそうです。

※竹本健治さんに関するエッセイは第16回「第五の奇書を選ぶとしたら(竹本健治さんと)も公開しております。こちらから是非ご覧ください(編集者:注)

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