ひかわ玲子先生のお宅訪問!|第7回 千澤のり子 エッセイ

 大型連休が明けた日、作家のひかわ玲子さんのご自宅に遊びに行きました。
 ひかわさんとは、日本推理作家協会の囲碁同好会つながりであります。
 約8年前。碁盤すら見たことがなかったのに、とにかく囲碁を覚えたいという一心で、私は同好会に飛び込みました。
 当時は月に1回、新人特訓会も開催されていました(現在は数ヶ月に1回です)。ひかわさんとはその席で出会いました。初対面なのに、ずっと前から親しくしているかのように接してくださり、輪の中に入れてくださったことを覚えています。
 その後、師匠である作家の竹本健治さんの仕事場まで囲碁を習いに行ったり、竹本さんが佐賀県にお引越しされる前に開催された合宿では、同室になったりもしました。合宿の際に一緒に温泉に入ったほど、素の自分を見せられる方です。
 同じ団体に所属していても、ひかわさんはSFファンタジー、私は本格ミステリと、微妙に所属位置が異なるため、囲碁同好会以外でご一緒する機会はめったにありません。プライベートでお会いするのも初めてでした。
 ドキドキのお宅訪問です。玄関には萩尾望都さんや天野喜孝さんの絵が飾ってあります。殺風景な我が家とは段違いです。
 リビングで私は猫に遊んでもらい、ひかわさんはお茶のご準備。ケーキとお菓子をいただきながら、インテリアやおしゃれキャンドルのお話をして、話が途切れたところで本を見せていただけることになりました。
「のりりんさん(私のあだ名)はこっちのほうが好きかな?」と、ひかわさんは、ミステリ本の置いてあるお部屋を案内してくださいました。

「え、え、えー!」
 そこには、普通に塔晶夫名義の『虚無への供物』のハードカバーがありました。しかも、美本です。軍手なしに触るのはかなりためらいましたが、パラパラ見させていただきました。

 氷川瓏さんの訳したカーの『どくろ城』もあります。渡辺剣次さんが代筆を務めたという江戸川乱歩『十字路』に、同じく渡辺剣次さんが編んだ『13の暗号』が並んでいます。
氷川瓏さんと渡辺剣次さんのご兄弟は、ひかわさんの伯父さまなのです。さすがに恐れ多くて、これらの本は眺めるだけにいたしました。古書好きにはたまらない空間です。

 絵本を1冊読み、きたのじゅんこさんの画集を見せていただいていたら、きたのさんも参加している同人誌をお持ちだということで、お仕事部屋に移動しました。
 天井まで届く本棚が、ドアのある壁も含めて三面。やはり、SFとファンタジー作品が大半を占めています。専門図書館に紛れ込んだかのようです。サンリオSF文庫もたくさんありました。どの本もちゃんと背表紙をこちらに向けて、レーベルごとに並んでいます。
 備え付けクローゼットにこれでもかと詰め込んで、魔窟状態となっている私の本置き場とはまったく異なります。ちなみに、普段仕事で使っている実家の私の部屋は、本の小山ができています。
 自分もこれだけ整理整頓していたら、探すのが億劫だからまた買ってしまうなんてことはなくなるのに、と思いました。『SFマガジン』の創刊号や、『幻想と怪奇』のバックナンバーもかなりいい保存状態です。

 執筆者全員のサインが書けるようになっている外国のホラーアンソロジーの原書も見させていただきました。なんと、サインがコンプリートされています。とても貴重な本だということが、見ただけで分かります。

 きたのさんの妹さんも参加している同人誌も出してくださいました。手書きの同人誌も、今ではすっかり珍しくなっています。初期のコミケの写真も見ました。
 歴史の偉大さを実感できるお部屋で、私はすっかり取材モードになっていました。
「創始者たちにすぐに追いつこうとしないで、10年時間をかけてみること」
 ひかわさんのこの言葉が、印象に残っています。
 これからの10年、自分はどのように歩いていくのだろうと思いました。
 振り返るとあっという間ですが、前を向くと、とても長いです。なんとなく、自分はこれからも茨の道を進むような気がしています。
 それを越えたあと、きっとこの日を思い出すのでしょう。どんなふうに振り返るか、ちょっと楽しみでもあります。……あまり痛くないといいです。

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