ミステリと地図|第58回 千澤のり子エッセイ

 スマートフォンに地図機能がついているのに、なぜか、いつも道に迷います。特に苦手な場所は、新宿三丁目駅付近です。何度も訪れているのに、未だに一人では目的地にたどり着けないこともしょっちゅうあります。
 若い頃、添乗員のアルバイトをしていたはずなのに。
 バスコースならば、運転手さんやバスガイドさんが目的地まで案内してくれました。新幹線や飛行機のコースでは、かなり早い時間に到着し、現地でシミュレーションしていました。
 現在はどうかというと、知らない場所も知っている場所も、気がついたら迷子になっています。
 原因は、おそらく、紙の地図を持ち歩かなくなったからです。小さな画面では、今いる場所を把握できなくないのです。便利な機能がついているのに使いこなせないとは、アナログ人間の悲しい性です。
 なので、最近は、ガイドブックを買うようになりました。紹介されている食べ物にはさほど惹かれませんが、自分の行ったことがあるお店を後から振り返るのも楽しいものです。

 7月に北海道に行った際、ミステリー作家の柄刀一さんから、北海道立文学館でちょうど開催中だった「地図と文学の素敵な関係」をお勧めされました。
ガイドブックを確認してみると、建物のある中島公園は、宿のすぐ近くにあります。翌日はすぐに富良野入りする予定でしたが、目的地の麓郷は交通手段がなく、その翌日でないと訪れることはできそうにありません。
 だったら、札幌観光も少し取り入れようと、朝一番に文学館を訪れました。5年前は中島公園でラジオ体操をしてきたので、なんとなく位置は把握でき、迷わずに到着できました。

 修学旅行中らしき、中学生グループに混ざって入館。地図の掲載されている本が、あらすじと一緒にたくさん紹介されていました。
特に気に入ったコーナーは、児童向けのファンタジーです。佐藤さとる『コロボックル物語』シリーズは定番中の定番。ズッコケ三人組でおなじみの那須幹彦『お江戸の百太郎』シリーズも展示されていました。私が読んだことがあるのは『お江戸の百太郎 大山天狗怪事件』のみですが、子供向けながらも結構ずっしりくることをしていたという記憶がうっすらと残っています。
 
 今回の展示にはありませんでしたが、柏葉幸子『霧のむこうのふしぎな町』で町モノにはまったんだっけと、しみじみ少女時代を思い出します。
 ミステリのコーナーでは、東直己『探偵はBARにいる』シリーズが大きく取り上げられていました。札幌ロケ地マップを購入(絵/松本浦)。こういった紙の地図があると、映像を観たくなります。シリーズ第三作は未視聴ですが、第一作と第二作を観た頃は、自分が北海道を訪れるとは思ってもいませんでした。
 ミステリコーナーでは、柄刀一『密室キングダム』が展示されていました。普段は、作品と作者は別と捉えています。そうでないと、気軽におしゃべりなどできません。でも、こういった展示を見ると、日常世界では出会えないような方と交流があるのだと実感が湧き、不思議な感覚になります。
 前回の記事に書いたように、今回の北海道訪問は、ドラマ「北の国から」のロケ地をめぐることが目的でした。2番目の目的は、北海道の方々と直接お会いすること。この仕事をしていなかったら、きっと北海道に行ってみようとは思わなかったのだろうなあと、レンタル自転車にまたがったそのとき。
(初めて商業誌に載った文章は、「ミステリと地図」というタイトルだった……)
 急に思い出しました。
 なので、「地図と文学の素敵な関係」に興味を持って、寄り道をしたのかもしれません。
 原稿を書くことに必死で、「近すぎて見えない」現象から書き始めたのは覚えていますが、どんな作品を取り上げたのかすら、記憶に残っておらず。
 「ミステリと地図」は、小学館「本の窓」2005年12月号に掲載されています。私の手元にはないので、過去の自分がどんな文章を書いたのか、確認することができません。
 過去は捨てる性格ですが、ときどき、ふとしたときに、あの頃の自分は何を考えていたのだろうかと知りたくなる時があります。

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