書き手による有志団体|第45回 千澤のり子 エッセイ

 先日、昨年から所属している団体「北海道ミステリークロスマッチ」に提出する短編小説を書きました。年に一度のイベントで、締切日と枚数の規定はありますが、ミステリーに関することなら、小説でも評論でも漫画でも自由に書いて提出することができます。
 探偵小説研究会の機関誌『CRITICA』でも、短編小説をいくつも寄稿していますが、「読者はお金を払っている」ことを前提に書いています。なので、好きなように書いてはいても、相当苦戦はしているといっても過言ではありません。
 そこで、今回は、「楽しく」書くことだけに意識を集中させました。こんなに気楽に書いたのは、小説を書くようになってから初めてだと思います(黒歴史は除いています)。辛くも苦しくも難しくもなく、小説を書くことって楽しいのだと実感できました。
 タイトルは、「ドミノ倒しホワイトダニット」。主題は「いったい何が起こっているのか」。そこに倒叙と叙述トリックと日常の謎を組み合わせ、猟奇殺人と男娼と温泉宿も取り入れています。私の趣味趣向をよくご存じの方ほど、好きな要素をやりたい放題詰め込んできたなあと思うでしょう。
 集まった作品は、有志の会員たちによって全作読まれ、選評と一緒にポイントが投じられます。順位を競うことが本来の目的ですが、私が楽しみにしているのは、選評です。本格ミステリ大賞や年末のベストテンで選評やコメントを書いてきましたが、逆の立場になるのは初めてです。今年の参加投稿者は7名。投票の締め切りが8月末なので、9月の頭には結果が分かります。作品の一般公開は、もう少し先になるかもしれません。
札幌テレビ塔
 北海道ミステリークロスマッチに限らず、書き手による有志団体は、いくつも存在しています。
 例えば、故・誉田龍一さんが声掛けをされてできたという操觚(そうこ)の会。歴史小説の勉強会として創設され、現役プロ作家で構成されています。有志会員によるトークショーなどのイベント活動も頻繁に行われています。
 アンソロジーを何冊も出版されているアミの会(仮)は、女性作家による団体です。最初の本『捨てる』のあとがきによると、プライベートの食事会で、柴田よしきさんが「ねえねえ、アンソロジー出そうよ」とおっしゃったことが発端となったそうです。
『2021本格ミステリベスト10』によれば、北海道ミステリークロスマッチも忘年会などのいわゆる飲み会の場で、柄刀一さんが「生産的な活動をしよう」と発案されてから現在の活動にいたったそうです。
 竹本健治さんと倉野憲比古のお茶会の場で生まれた変格ミステリ作家クラブは、「変格ミステリ作家クラブ会員だと名乗れる」という活動のみ行っていました。ツイッター上の勧誘活動で、現在はかなりの人数が会員になっています(私も早い段階で声をかけられて会員になっています)。会員が増えるたびに「これでまた一歩野望に近づいたッ!」という野望は、竹本さん曰く、「パノラマ島を造る」ことだそうです。
 海外作家による活動では、英国の古き良き時代の面影がある探偵(ディテクション)クラブがもっとも広く知られていると思います。発足は1928年、発案者はアントニー・バークリー。有志会員によるリレー長編『漂う提督』は、会の調達資金を捻出するために書かれたそうです。「入会の儀式などはものものしく荘厳だった」と、訳者あとがきで触れられているように、錚々たる作家たちが会員になっています。
 台湾推理作家協会は、北海道ミステリークロスマッチ会員でもある既晴さんが主催となって立ち上げた団体です。2001年に発足された際は台湾推理倶楽部という名称で、現在は台湾の推理小説界の中心を担う団体に発展しました。

 一冊の書籍であっても、そこに多くの方が関わると、「何かできる」という可能性が無限に広がっていく気がしています。
自分一人だけだと点にしかなりませんが、団体に所属していたら、大きな枠を動かせるかもしれません。
そんな野望を抱いて、これからも有志団体活動をしていくと思います。


(編集者注)

・北海道ミステリークロスマッチ https://note.com/crossmatch/
・探偵小説研究会 http://tanteishosetu-kenkyukai.com/
・操觚の会 https://www.soukonokai.jp/
・変格ミステリ作家クラブ https://twitter.com/henkaku_club

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