文学フリマ東京|第43回 千澤のり子 エッセイ


 2021年5月16日の日曜日、東京流通センターで行われた文学フリマ東京にて、売り子をしてきました。
 私の所属する探偵小説研究会は毎回参加していて、評論メインの機関誌『CRITICA』を販売しています。
 創刊号から2号くらいまではコミケ販売と通販のみでしたが、いつしか文フリにも出店するようになりました。当初は全国展開をしておらず、開催場所は秋葉原でした。振り返ると、かなりの年数が経っています。
 例会で機関誌を作ろうという話題が出て、原稿が集まり、印刷所に出向き、しばらく皆勤で売り子を行い、通信販売もほとんど一人で担当していました。なので、『CRITICA』はとても身近な存在で、私の探偵小説研究会員としての軌跡でもあるといっても過言ではありません。たしか8号か9号くらいまで、在庫も全部預かっていました。
 文学フリマ東京は春と秋の年に2回行われます。春に売り子をするのは久しぶりです。ある年、身内に突然の不幸がありドタキャン、それから数年は法事のために予定を空けられませんでした。
 世間は緊急事態宣言中。新型コロナ感染は一向に収束せず、毎回大賑わいで密集しているイベントに行っても良いものかと、開催日の直前までかなり不安な心情でした。
 それでも当日になると心が踊ります。迷子になっても見つけてもらえるように、派手な服装で出発。気分は遠足です。
 快速と間違えて乗車し、羽田空港まで行ってきたので、若干遅れながら会場に到着。今回は来場者と入り口が異なりました。入場前に、検温、消毒、政府推奨アプリを入れるか、連絡先を記載して提出するという流れは、観劇と同じです。全員マスク着用も義務付けられています。
 会場内の各ブースは、通常よりもかなりスペースが空いていました。寒いくらいに換気も充分です。
 今回の売り子は、若手会員の嵩平何さんと私です。昨年から嵩平さんは『本格ミステリ・ベスト10』で同人誌コラムを担当しているため、即売イベントの参加は必須になっています。
 探偵小説研究会の活動で、会員に直接お会いするのは1年と数ヶ月ぶりです。
 (私、どういうふうに接していたっけ……?)
 コロナ禍以降、人間関係が変わってしまいました。プライベートでは文筆業とまったく関係のない友達か、比較的新しく出会った方としか対面で交流をしていません。例外はありますが、数回程度です。もともと苦手ですが、会話のキャッチボールが成り立ちません。
 「羽住さん、外に出ましょう」
 「出かけてるもん。お芝居観たり、講師したり」
 「それは仕事でしょ? もっと人に会いましょう」
 「じゃあ、嵩平さんが遊んでよー」
 「羽住」と呼ばれてようやく、感覚を取り戻せました。気心はしれているけれど、友達とはちょっと異なる、安心できる関係の方からはこう呼ばれています(「のりりん」も同様です)。 
 心細かったんだなと、なぜか思いました。
 代表さんの「私たちは反政府ではありません」という挨拶のあと、文学フリマが始まりました。
 お客さまも入場制限が設けられていて、1時間以上滞在する場合は一旦外に出ないとならないそうです。目印に時間ごとに区切られたシールを衣服に貼っています。
 やはり感染が怖くて、会場内の移動はほとんどせず。購入本はかなり絞りました。


(購入した同人誌)
 ブースには、こういう場でしかお会いできない方、一緒に遊んでいた方、初めての方、いろいろな方が訪れてくださいました。『CRITICA』新刊のお問い合わせもたくさんいただいています。
 特に印象に残ったのが、サインをしたら作家の積木鏡介さんだったこと、千澤のり子を知っている方がいらしてくれたこと、よくトークショーを見に行っていた木魚庵さんと初めてお話したことです。
積木鏡介さんと
(写真:積木鏡介さんと)
 こういったイベントは、好きな本を自由に作って、直接お客さまの顔を見て販売できるという楽しさがあります。
 通常よりももっと大規模なイベントが開催できるくらい、平穏な日常が戻ってほしいと切に願っています。

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