ミステリ夜話|第41回 千澤のり子 エッセイ

 先日、Discordを使って、ミステリ談義をしました。
 サーバーを立ててくれたのは、ミステリ仲間のちくわさんです。ちくわさんはツイッターを中心に活動している社会人ミステリ研究会「シャカミス」のメンバーです。まだコロナ禍になる前、脱出ゲーム「さよなら僕らのマジックアワー」を仲間内で集まってプレイしたときに出会いました。
 シャカミスでは、ネット上で『少女ティック』の読書会を開いてくださったばかりです。そのときは作者として顔を出しましたが、今回はウェブを漂う一ミステリ好き「のりりん」で入室しました。
 開始時、音声を使える人は、ちくわさんとBさんでした。Bさんはまったく知らない方ではありません。文学フリマでお会いしたことがあり、たまにツイッターで反応をしています。おふたりとも、私よりもずっと年下です。
 特に議題が決まっていたわけではありませんが、会話は自然に深いミステリの話に入っていきました。ちくわさんは主に聞き役、私とBさんはネタバレしない程度に好きなトリックについて語りまくります。20年前はチャットを使って、不特定多数のミステリ好きの方々とこのようなおしゃべりを毎日のように行っていました。なんだか懐かしくもあります。
序盤は、梶龍雄について。1977年に『透明な季節』で江戸川乱歩賞を受賞し、1990年に亡くなったミステリ作家です。刊行作品はかなりありますが、現在、紙の本では入手不可能。ごく一部の作品でしたら電子書籍で読めます。復刊はほとんどしておりません。
 
私がインターネットを始めた頃から、梶龍雄作品は入手困難と言われていました。状況は今でも変わらず。古本屋さんで見つけたらダブり本でも買うようにしていたので、我が家はそこそこの作品が揃っています。でも、全冊は持っていません。
 どの作品が好きかという話題になり、私があげたのは『ぼくの好色天使たち』。戦後の闇市を舞台起きる連続殺人を扱った作品です。貧しくて、自分の生活すら困難な状況なのに、どことなくユーモラスで、ハートフルで、住民の一人になって事件を解き明かす気分になれる作品です。
 お勧めいただいたのは、『海を見ないで陸を見よう』。実は15年以上積んでいる作品です。青春小説としても傑作とのことです。もったいなくて読まないままでいましたが、そろそろ解禁しようかと思いました。
梶龍雄で青春というと、幻の本となっている『灰色の季節』を、私は読了後すぐに手放しています。私よりもずっと本を大切に保管してくれるミステリ仲間に譲りましたが、読まれたのかなと気になりました。
その後、愛すべきバカトリックに話題は移りました。一致したのが、飛鳥部勝則『堕天使拷問刑』。よくもこんなトリックが成立したものだと苦笑とともに、攻撃力の高さに圧倒されました。

途中で、Bさんからこんな質問をされました。
「のりりんさんはツイッターをされていますか?」
「してます。すみません、今はハンドルネームで入室しています」
「IDお聞きしてもいいですか?」
「千澤のり子という名前です」
「はいいいいいいいいいいい!??」
「気づいていなかったんですか!?」
 Bさんは、ちくわさんのお友達のミステリ好き・のりりんとして接してくださっていたそうです。前後で口調がまったく変わらなかったので、いい方なんだと思いました。
 文字だけの交流ですと、男性と間違えられることが、しばしばありました。音声では初めてです。これも、一種の叙述トリックに含まれるのでしょうか。
「浦賀和宏好きの千澤センセイじゃないですか」となり、しばらくは浦賀和宏作品の思い出話に。亡くなったことが、本当に悔やまれます。

 次第に通話参加者が増え、「好きな作家の既刊本は、一冊だけ読まずに残してしまう」という話題になりました。それぞれが意外な未読本をあげ、「読もうよ!」と言い合いながら、私はふと、ネットミステリ仲間だった友人Sを思い出していました。
 どこの誰とも関係なく、楽しくミステリの話ができる時間って、とても貴重なのですよね。また機会があれば参加したいです。

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