私の初めてミステリ本|第36回 千澤のり子 エッセイ

 これまで本の思い出話と自分の交友関係を絡めて書いてきましたが、方向性を変えていきたいと思います。
 主題は、自分のルーツとなる本を発掘し、再び読んでみること。
 数年前から、インタビューをしたときは、その方が子供の頃に読んだ本を聞いています。どういう本を読んできたかという背景を知ることで、人物像が見えてきそうな気がしているからです。
 果たして、自分はどうなのだろうか。なぜ、こういう人物になったのだろうか。
 今まで読んできた本のすべてをもう一度読み返すことは、とっくに不可能になっています。それでも、記憶に残っている一部を振り返ることで、私という人物の軌跡を追うことができるのではないか。誰かが読んでくれることで、私しか知らない私を共有してくれるのではないか。それが、私という人物が存在した証になるのではないかと考えるようになりました。
 この考えは、大学時に分析哲学で「自己同一性」を学んでいた所以であります。「私とは一体何か」という哲学問題を、私は今でも抱えているのかもしれません。
 まずは、哲田良雄『名探偵推理クイズ大百科』。

 私が初めて「ミステリ(推理小説)って面白いんだ」と思った本であり、この本がきっかけで、私はとにかくミステリを読みまくるようになりました。
 再入手できたのは、ほんの少し前です。
 自分が最初に読んだミステリはクイズ本だったということは覚えていたのですが、タイトルも作者も出版社もとっくに忘れていました。
 あのとき読んだ本はなんだったのだろう、中身を見たら思い出せるかもしれないと、推理クイズ本を探すようになったのは、ここ10年くらい前からです。
 入手困難の本が多く、価格もちょっと高めです。なので、片っ端から集めることはできず、目星をつけて、これぞ! と思った本を手に入れていました。
 でも、なかなか自分が影響を受けたクイズ本にたどり着けません。間違えて購入してしまった本もあります。
 名探偵の紹介がたくさん書かれていて、トリック論もあって、ブックガイドも充実している……もしかしたら幻の本だったのかもしれない。
 もう諦めていたある日、ゲーム記事の連載をしている「たいむましん」さんのツイートがきっかけで、その本を入手することができたのです。
 
 届いてすぐに中身を確認しました。間違いありません。
 探偵と作者と代表作がイラスト付きでわかりやすくまとめてあります。
 当時小学2年生だった私は、ミステリはクイズで、それが小説になっていると、逆に捉えていたのでした。
 この本で特に興味を持ったのは、「意外な犯人」や「意外な被害者」がまとめられたコラムです。特にフレデリック・ブラウン「うしろを見るな」やセバスチャン・ジャプリゾ『シンデレラの罠』はずっと読みたかった本でした。もしかしたら、この頃から、ブックガイドや評論に惹かれていたのかもしれません。

 数年後、ある日突然、図書館には子供向けミステリのコーナーがあることを認知しました。ポプラ社を制覇して、小学校4年生くらいからあかね書房や秋田書店の叢書も読んだ結果……。
 私、犯人やトリックをほとんど知ってるじゃん!
 少しがっかりしました。いえ、かなりです。
 でも、登場人物たちは犯人を知らないのに、私は知っているという優越感があったのは事実です。いつバレるのだろうとハラハラしながら読んだ作品もありました。
 私が叙述トリックをずっと追い求めているのは、この本にあった「探偵が犯人」に興味を持ったことがきっかけになっています。あの作品はネタバレで読んでしまったけれど、ほかにも同様のトリックが使われた作品があるかもしれない。あるなら知りたい! この気持ちが、現在まで続いています。
 トリックだけ覚えていた作品が、E・S・ガードナーが書いたということも分かりました。
 ネタバレ満載のこの本には、『そして誰もいなくなった』と『オリエント急行殺人事件』の犯人には触れていなかったことが幸いでした。すごく驚いた2冊なので、もしかしたら、省いたのは作者の計算だったのかもしれないなと、推測しています。

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