これまで本の思い出話と自分の交友関係を絡めて書いてきましたが、方向性を変えていきたいと思います。
主題は、自分のルーツとなる本を発掘し、再び読んでみること。
数年前から、インタビューをしたときは、その方が子供の頃に読んだ本を聞いています。どういう本を読んできたかという背景を知ることで、人物像が見えてきそうな気がしているからです。
果たして、自分はどうなのだろうか。なぜ、こういう人物になったのだろうか。
今まで読んできた本のすべてをもう一度読み返すことは、とっくに不可能になっています。それでも、記憶に残っている一部を振り返ることで、私という人物の軌跡を追うことができるのではないか。誰かが読んでくれることで、私しか知らない私を共有してくれるのではないか。それが、私という人物が存在した証になるのではないかと考えるようになりました。
この考えは、大学時に分析哲学で「自己同一性」を学んでいた所以であります。「私とは一体何か」という哲学問題を、私は今でも抱えているのかもしれません。
まずは、哲田良雄『名探偵推理クイズ大百科』。
私が初めて「ミステリ(推理小説)って面白いんだ」と思った本であり、この本がきっかけで、私はとにかくミステリを読みまくるようになりました。
再入手できたのは、ほんの少し前です。
自分が最初に読んだミステリはクイズ本だったということは覚えていたのですが、タイトルも作者も出版社もとっくに忘れていました。
あのとき読んだ本はなんだったのだろう、中身を見たら思い出せるかもしれないと、推理クイズ本を探すようになったのは、ここ10年くらい前からです。
入手困難の本が多く、価格もちょっと高めです。なので、片っ端から集めることはできず、目星をつけて、これぞ! と思った本を手に入れていました。
でも、なかなか自分が影響を受けたクイズ本にたどり着けません。間違えて購入してしまった本もあります。
名探偵の紹介がたくさん書かれていて、トリック論もあって、ブックガイドも充実している……もしかしたら幻の本だったのかもしれない。
もう諦めていたある日、ゲーム記事の連載をしている「たいむましん」さんのツイートがきっかけで、その本を入手することができたのです。
届いてすぐに中身を確認しました。間違いありません。
探偵と作者と代表作がイラスト付きでわかりやすくまとめてあります。
当時小学2年生だった私は、ミステリはクイズで、それが小説になっていると、逆に捉えていたのでした。
この本で特に興味を持ったのは、「意外な犯人」や「意外な被害者」がまとめられたコラムです。特にフレデリック・ブラウン「うしろを見るな」やセバスチャン・ジャプリゾ『シンデレラの罠』はずっと読みたかった本でした。もしかしたら、この頃から、ブックガイドや評論に惹かれていたのかもしれません。
数年後、ある日突然、図書館には子供向けミステリのコーナーがあることを認知しました。ポプラ社を制覇して、小学校4年生くらいからあかね書房や秋田書店の叢書も読んだ結果……。
私、犯人やトリックをほとんど知ってるじゃん!
少しがっかりしました。いえ、かなりです。
でも、登場人物たちは犯人を知らないのに、私は知っているという優越感があったのは事実です。いつバレるのだろうとハラハラしながら読んだ作品もありました。
私が叙述トリックをずっと追い求めているのは、この本にあった「探偵が犯人」に興味を持ったことがきっかけになっています。あの作品はネタバレで読んでしまったけれど、ほかにも同様のトリックが使われた作品があるかもしれない。あるなら知りたい! この気持ちが、現在まで続いています。
トリックだけ覚えていた作品が、E・S・ガードナーが書いたということも分かりました。
ネタバレ満載のこの本には、『そして誰もいなくなった』と『オリエント急行殺人事件』の犯人には触れていなかったことが幸いでした。すごく驚いた2冊なので、もしかしたら、省いたのは作者の計算だったのかもしれないなと、推測しています。
1973年生まれ
作家。近刊は『暗黒10カラット-十歳たちの不連続短編集-』(行舟文化/2022年)。
ボードゲーム好きで『人狼作家』の編集も手がけ、羽住典子名義でミステリ評論活動も行っている。
X:https://x.com/noriko_c
-古書店三月兎之杜からの詳しいご紹介-
・日本推理作家協会会員、本格ミステリ作家クラブ会員。
・2007年に二階堂黎人氏との合作『ルームシェア 私立探偵・桐山真紀子』にてデビュー(当時は宗形キメラ名義)。その後は単独名義にて『マーダーゲーム』『シンフォニック・ロスト』(以上講談社)を発表。なお講談社ノベルスの公式WEBサイト「あとがきのあとがき」では、『シンフォニック・ロスト』執筆時のご苦労話が読めます。
・2017年に単著三作目『鵬藤高校天文部 君が見つけた星座』(原書房)を上梓。ほかに共著として『人狼作家』(原書房)、『サイバーミステリ宣言!』(角川書店)、『平成ストライク』(角川文庫)など。
・ミステリ作家としてご活躍の一方、羽住典子名義で評論家としても精力的に活動中。所属する「探偵小説研究会」では『本格ミステリ・ディケイド300』、『本格ミステリ・ベスト10』(共に原書房)の編纂にも携わられております。
・2023年10月より、秋葉原ジャンク通りの<和牛カレーが堪能できるカレー専門店>「レボリューション×エボリューション(レボエボ)」のオーナー。
<店舗情報>
Website:https://akiba-curry.com/
X:https://x.com/RevoEvoCurry