一ヵ月ぶりのこんにちは。
急に秋めいてきた今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか?
夏の暑さにくたばっていた我が家のわんこは、朝晩が涼しくなったとたん元気になって、最近は一度散歩に出かけたら二時間くらい帰ろうとしません。今月の原稿が遅れたのはそのせいだったりします。はい。そういうことにしておいてください(汗)。
さて、本題。
あなたは読まなくなった本をどうしていますか?
泣く泣く手放すことになった思い出の一冊。手もとに残しておきたいのは山々ですが、残念ながら保管スペースにも限りがあります。大切にしていた本ですから、廃棄するのではなく、別の誰かにかわいがってもらいたいと思うのが親心。古書店に売るのもいいけれど、不本意な値段をつけられたくはありません。ヤフオクやメルカリを利用する手もありますが、できればどんな人に買われたのかを知りたいし……。ああ、自分が古書店の店主だったら! そんなふうに思ったことはないでしょうか?
そんなあなたの悩みを一気に解決してくれるお店に出会いました。
それがこちら!
「みつばち古書部」
前回お邪魔した大阪市阿倍野区文の里のステキな古書店「居留守文庫」の店長さんに教えていただいて、急遽うかがうこととなったお店です。
7月初旬の訪問だったので、店内は七夕のディスプレイで夏っぽい雰囲気に仕上がっておりました。
「居留守文庫」の店長さんがプロデュースしたこちらのお店。「居留守文庫」同様、手作りの木箱を組み合わせた本棚が壁にどどーんと設置してあります。
おや? それぞれの木箱になにかPOPのようなものが貼りつけてあるけどなんだろう?
近づいてみると……
むむむ?
木箱に貼りつけられた紙片には、〈読酌文庫〉〈三十路女の本棚〉〈鳥の巣舎〉など、なにやら意味深な言葉が書き記されています。
実はこれ、すべて屋号――お店の名前で、木箱ひとつひとつが独立した古書店になっているんです。
え? どーゆーことかよくわからない?
では詳しく説明しましょう。
「みつばち古書部」はシェア型の古書店。木箱ひとつを一ヵ月五百円でレンタルしたら、そのスペースにオススメの古書を並べて販売できるというシステム。だれでも手軽に古書店の店主になれちゃうという、なんとも夢みたいなお店なんです。
古書店の店主になってみたいなあと思っている本好きのかたはきっと大勢いると思います。とはいえ、実際にお店を持つのはお金もかかるしリスクも大きい。毎日店番もしなくちゃいけないし、なにかと大変です。
だけどここなら、それこそお店ごっこでもやるような感覚で気軽に古書店を始められます。こんなの楽しいに決まってるじゃありませんか。
レンタルした木箱をどのように使うかは店主次第。本の並べ方を工夫したり、宣伝POPを書いたり、小物を飾ってちょっとしたアクセントをつけたり。あなただけの古書店が簡単に作れちゃいます。
お店の数はなんと八十以上!
こりゃ、すごい。店舗数だけなら、神田の古書店街に匹敵しますよ。
それぞれの木箱をじっくり眺めていくと、わずか数十立方センチメートルの空間内に様々な個性があふれかえっているのがわかって、もうそれだけでワクワクしちゃいます。
たとえば、こんなお店が。
レトロなメンコがいい味出してます。
妖怪・怪談の本を集めたお店。
こちらは毎月テーマが変わるお店。ディスプレイも凝っています。
本や小物から店主さんの人柄を想像するのも楽しかったり。
紹介したのはほんの一部。
実際に目にしたら、その迫力に度肝を抜くこと間違いありません。
百聞は一見にしかず。大阪へお出かけの際は、ぜひ立ち寄ってみてください。
ちなみに、店番は日替わり制。
店番を希望するかたは大勢いるため、ふだん忙しい人は棚だけ作って、あとは店番にお任せ! ってこともできるみたいです。
僕がうかがった日に店番をしていたのは「A型長女の会」の店主さんでした。
「A型長女の会」のお店はこちら。
ほら。並んでいる本からなんとなく人柄も想像できるでしょう?
そんな「A型長女の会」の店主さんから、いろいろとお話をうかがうことができました。
店番を担当するかたは、その日の全書店の売り上げの一部が報酬として手に入るほか、店舗の中央にある平置き棚を自由に使えたり、自分の棚を希望の場所(お客さんの目につきやすい位置)へこっそり移動できたりと、特典があれこれあるそうで。
店主が交代するのに併せて棚の位置も次々に変わっていくというのは、なんだかボードゲームみたいでこれまた面白いですよね。
本棚に並べられた古書を眺めるうちに、たくさんの店主たちの個性まで見えてくるという珍しいお店。こんな店が自宅の近くにあったら、毎日でも通っちゃいますよ。もし僕がお店を出すとしたら、屋号はどうしようかなあ。どんな本を並べようかなあ。どのような飾り付けをしようかなあ――どこまでも膨らみ続ける妄想。このような形の古書店がもっともっと増えていくことを切に願うばかりです。
ちなみに今回、一番インパクトの大きかったお店はこちら。
「ハッとして!BOOK」
BOOKは〈ブック〉ではなく〈ブー〉と呼ぶのが正しいのだとか。店長さんの田原俊彦愛がひしひしと伝わってきます。
さてさて。このような形の古書店がもっともっと増えていくことを切に願うばかり……と書いたら、なんと新しい姉妹店が今月オープンしました!
「みつばち古書部」の流れをくんだ新たなシェア古書店「書肆七味(しょししちみ)」がそれ。こちらにも機会があったらぜひうかがってみたいものです。
素敵な古書店がたくさんある阿倍野……ホントうらやましい。
というわけで、大阪編はこれにて終了! 来月も個性たっぷりの古書店にお邪魔します。どこへ出かけるかはまだ秘密。
次回もお楽しみに!
《今回、お世話になった古書店さま》
みつばち古書部
定休日なし(不定休) 営業時間はホームページのスケジュール表を確認
大阪府大阪市阿倍野区昭和町1-6-3
https://www.irusubunko.com/
《今月のくろけん》
今月のお知らせはありません。謎解きと筋トレに励む毎日。その合間にお仕事もちょっとだけやっております(笑)。
黒田研二(くろだ・けんじ)
作家。出版社勤務を経て、2000年『ウェディング・ドレス』(講談社)で第16回メフィスト賞を受賞してデビュー。主な著作は『今日を忘れた明日の僕へ』(原書房)、『カンニング少女』『キュート&ニート』(以上文藝春秋)など。近年は『逆転裁判』『逆転検事』のコミカライズ(講談社)、『真かまいたちの夜』のメインシナリオ、『青鬼』のノベライズ(PHP研究所)など、ゲーム関連の仕事が中心。得意なスポーツは水泳、スキー。好きなものは柴犬、アイドル。
Twitter:https://twitter.com/kuroken01