すっかり寒くなりましたね。僕、柴犬を飼っているんですけど、朝晩の散歩がなかなかにつらい季節となってまいりました。出来たてほやほやのわんこのウ×コに温もりを感じる今日この頃――皆さんはどうお過ごしでしょうか?
さて。日本一の古書店街といえば、やはり神田。僕などがわざわざ紹介しなくとも、古書マニアのかたなら充分すぎるほど知っている有名エリアですが、「お店がいっぱいありすぎてよくわかんない」「店に入ってみたいけど、本にあまり詳しくない私にはどうもハードルが高すぎて……」「どうせ、小難しい本ばかり置いてあるんでしょ?」といった理由から入店をためらっている古書ビギナーも多いのでは? そんな皆様に、同じくビギナーである僕の視点から、神田古書店街の魅力を伝えられたらいいなあと思いまして。今月から3回に分けて神田古書店街でもとくにおススメのお店をご紹介していきます。
神田古書店街は神保町駅周辺を中心に、水道橋や御茶ノ水近辺まで広がっています。神田古書店街と呼ばれてはいますけど、神田駅からは少々離れているので注意が必要です。
エリア内にある古書店の数はなんと約140軒。都内の古書店の三分の一がここに集結しているのだとか。とくに、駿河台下交差点から専大前交差点までの靖国通り沿いは圧巻。東西500メートル以上にわたって立ち並ぶお店はほとんどすべてが古書店、古書店、古書店……! これはもはや古書のテーマパーク。たくさんの本に囲まれながら至福のひとときを過ごせること間違いありません。
だけど、あまりにも規模が大きすぎるため、一体どこから見ていけばよいのか、戸惑ってしまうのも事実。ディズニーランドやUSJへ出かけたとき、真っ先に手に入れたいのはやはりガイドマップでしょう。というわけで、神田古書店街ビギナーにまず立ち寄っていただきたいのは「本と町の案内所」。靖国通りの南――すずらん通り沿いにある小学館が運営するギャラリーであります。
「本と町の案内所」
神保町駅A7出口から地上に出て、徒歩数分の場所に位置しています。ここで神田古書店連盟が作っている公式本『神保町公式ガイド』や「神保町古書店マップ」を手に入れましょう。どちらも無料です。
さあ、マップ片手にいよいよ古書店巡りのスタートです。靖国通り沿いは古書店ばかりがぎゅうぎゅうに詰まった異空間のため、初めて来られた方はちょっとびびってしまうかもしれません。その点、すずらん通りは飲食店と古書店がほどよい間隔で並んでいるため、リラックスしながら探索することができます。
ではまず、すずらん通り沿いで気になった古書店をいくつかご紹介していきましょう。
昔懐かしい映画のチラシやポスターに心惹かれる「虔十書林」。
オシャレな洋書が並ぶ「magnif」。雑誌も多数。
アイドル関連ならここ!その名のとおり魂が荒ぶる「荒魂書店」。等身大パネルなども売っています。
美術書中心のお店「ボヘミアンズ・ギルド」。
神田書店街の魅力は、店舗ごとに扱う本のテーマが異なっている点。公式ガイドブックやマップはテーマ別でお店を探せるようにもなっているので、たとえば自然科学系の古書を取り扱うお店だけをセレクトして歩き回ることも可能だったりします。
さて。個性豊かな古書店が建ち並ぶすずらん通りで、ひときわ異彩を放っていたのが、今回ご紹介するこちらのお店。
「呂古書房」
ビルの4Fにあるため、通りから店舗を確認することはできません。しかし、看板に描かれた味わい深いイラストと書体に心惹かれ、見えない力に引っ張られるかのようにふらふらとビルの奥へ。
エレベーターを降りると、そこはもうお店の真ん前。
店内に足を踏み入れると、いわゆる普通の古書店とはどこか違う雰囲気に戸惑います。それもそのはず。実はこのお店、日本で唯一の「豆本」専門店なんです。
店内に所狭しと並べられた豆本の数々。
ひと口に豆本といっても、その種類は様々。子供の頃、雑誌のおまけについてきた豆本もあれば、著名作家の短編を小型化したコレクターズアイテムもあったり。
著名作家の作品はガラスケースの中に。
浅田次郎さんの短編「遺影」の豆本。立派な木製ケースに収められています。
浅田次郎さんのサイン入り。貴重すぎて手が震えます。
こちらは夏目漱石「坊ちゃん」の豆本。分厚すぎて、もはや本を開けることは困難。
目を惹く豆本は、このような有名作家のものばかりではありません。日本では昭和28年に札幌で「ゑぞまめほん」なるものが刊行され一大ブームを巻き起こし、全国に広がっていったのだとか。手軽に読むことができて、持ち運びも楽チン。しかも見た目が可愛らしいと三拍子そろっているわけですから、なるほどブームになったのも頷けます。
製本や装丁にとことんこだわった作品が多いのも豆本の特徴。
たとえばこちらの豆本。和紙を丁寧に貼りつけて作られた函から中身を取り出すと、本だけでなく短冊や式紙が隙間なくきっちり収められていました。遊び心たっぷりの作品です。
しかもこの豆本、武井武雄さんの蔵書票が貼りつけてあります。先に紹介した店の看板のイラストも、実はこのかたの作品。無知ゆえ、僕はそのお名前を存じ上げませんでしたが、武井武雄さんは著名な童画家で、豆本にも造詣の深い人物だったようです。漫画家さくらももこさんの心の師でもあったとか。いわれてみれば、どことなくタッチが似ていますよね。
豆本っていうのはただサイズが小さいだけの本だと思っていましたが、実際に触れてみると、こだわりのポイントが千差万別で、なんとも奥深い世界。ただ眺めているだけでも面白いですし、神田古書店街へやって来たときは、ぜひとも立ち寄っていただきたいと思います。
店内には豆本だけでなく、数多くのこけしも陳列されていました。こちらはこちらで、さらに奥深い世界が広がっているんだろうなあ。
本来、店内は撮影厳禁なのですが、今回は特別にお許しをいただいて撮影させていただきました。お忙しいところ、いろいろとお話も聞かせていただき、本当に感謝しております。
……神田古書店街の探訪記、まだまだ続きます。
《今回、お世話になった古書店さま》
呂古書房
日祝定休 10:30~18:30
東京都千代田区神田神保町1-1倉田ビル4F
http://locoshobou.jimbou.net/
《今月のくろけん》
5年ぶりのオリジナル作品『家族パズル』(講談社)が発売されました。家族の絆を描いた5つの短編を収録しております。可愛い犬の表紙が目印。お手に取っていただけたら、僕、しっぽを振って喜んじゃいます。
http://kodansha-novels.jp/1912/kurodakenji/
黒田研二(くろだ・けんじ)
作家。出版社勤務を経て、2000年『ウェディング・ドレス』(講談社)で第16回メフィスト賞を受賞してデビュー。主な著作は『今日を忘れた明日の僕へ』(原書房)、『カンニング少女』『キュート&ニート』(以上文藝春秋)など。近年は『逆転裁判』『逆転検事』のコミカライズ(講談社)、『真かまいたちの夜』のメインシナリオ、『青鬼』のノベライズ(PHP研究所)など、ゲーム関連の仕事が中心。得意なスポーツは水泳、スキー。好きなものは柴犬、アイドル。
Twitter:https://twitter.com/kuroken01