不思議の国のアリス展|第25回 千澤のり子 エッセイ

 先日、横浜そごうで開催されていた「不思議の国のアリス展」に行ってきました。
 ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』と『鏡の国のアリス』は、私の一部となっているほど、思い入れの強い作品です。物語だけでなく、ジョン・テニエルのイラストから100円ショップで売られているキャラクターグッズまで、アリスの世界に関連づけられたものも大好きです。
 アリスとの初めての出会いは、「すくすくレコードブック」というレコードでした。朗読とオリジナルの歌が混ざっているレコードで、作品はアリス以外にもたくさんありました。
 ストーリーはおそらく原作に忠実だったと思いますが、どんな雰囲気のレコードだったかはまったく覚えていません。
「キ、キ、キーノコノコノコ キーノコノコノコ トントン」
 幼少だった私はこの歌の一部が気に入っていて、今でもたまに口ずさみます。
 アリスは特に主人公のアリスが大好きです。長い髪にカチューシャ、エプロンドレス。この特徴は、幼少時の憧れでもあります。
 おそらく4歳くらいの頃、すごく気に入っていたフリルのワンピースがありました。お出かけ用だったのですが、両親が共働きで、日中は祖父母に預けられていたので、勝手に毎日着ても叱られません。
 でも、不思議なドリンクを飲んだアリスまではいきませんが、身体はどんどん大きくなります。ぶかぶかだったワンピースは丈が短くなってしまったので、中にもう一枚スカートを履いてエプロンドレスとして着るようになりました。
 そんなお気に入りの服を着ていても、子供は外で思いっきり遊びます。大庭園だと思っていた小さな庭で、木の陰に隠れてみたり、スコップでどこまでも穴を掘ったりしていました。そんなふうにしているから、ワンピースはしみだらけです。祖母が手洗いしてくれても汚れは落ちません。そして、ついに修復不可能なほど破けてしまいました。
「こんなにたくさん着たから仕方ないね」とワンピースは処分され、しばらく私は悲しくてたまらなかったことを覚えています。


 『鏡の国のアリス』にいたハンプティ・ダンプティがマザーグースの詩に出てきたから詩を読むようになり、新井素子『ひとめあなたに…』を読んでから物語そのものを分析するようになり、雑誌の『MOE』でいろいろな挿絵画家を知り、中学3年生の時に、アリスが子豚を抱っこしている、テニエルの絵が描かれた手鏡を見つけました。
 それから、私のアリスグッズ収集が始まり、今は日常生活で使うあらゆるものがアリス柄になっています。洋服はもちろん、靴下、靴、帽子、カバン、着物、帯。文具にヘッドフォンに自転車のベル。カーテンや室内マット、布団カバーもアリス柄です。爪切りと耳かきがあればコンプリートできそうです。
 展覧会は図録を手に入れられれば充分満足できますが、今回のアリス展はどうしても体験したいことがありました。
 目当ては、アリスとコラボした脱出ゲームです。
 やる気満々で挑みましたが、かなり高度な内容です。本気で挑むには相当の時間がかかりそうでした。

 さらに、脱出ゲームと鑑賞の両方を行うのは、とても困難です。ゆっくり楽しみたいなら、どちらか片方を諦めないとなりません。筋道を立てて解くのではなく、問題を見て、暗号のようなものを見て、この並びならこの答えだろうと、直感的に解いていきました。こうすると、暗号解読の楽しさは半減してしまいます。なので、ほかの人にはあまりお勧めできません。
 展示は見たことのない絵もたくさんあり、大好きな画家サルバドール・ダリのアリス絵も複数枚見ることができました。ダリの個展よりも多かったと思います。
 北村薫さんの作品で、引退した大富豪がテーマパークを造ってみたという短編があります。その主人公は自分の子供時代のような世界を造り上げましたが、もしも私が同じようなテーマパークを造るなら、アリスの世界の再現にするでしょう。
 流す音楽は、「すくすくレコードブック」。夢は大きく持ちたいものであります。

※画像は撮影許可の絵です。ダリの絵は不可でした。

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