佐賀ミステリファンクラブ例会(後編)|第23回 千澤のり子 エッセイ

『佐賀ミステリファンクラブ例会(前編)より続きます)
 佐賀の旅2日目の午後は、佐賀ミステリファンクラブ(編集者注:竹本健治氏が顧問を務める)の例会に参加しました。開催場所は、JR佐賀駅のすぐ近くにある観光ホテル朝風の会議室です。
 毎回行っているという読書会の今回の課題本は、『君が見つけた星座』。著者の私は、ゲストに招いていただけたのでした。
 例会は、副会長さんの進行で、お勧め本の紹介を兼ねた自己紹介から始まりました。総勢18名。佐賀市周辺の方だけでなく、熊本や東京からの参加者もいました。夫婦、きょうだい、親子の会員もいらっしゃるそうです。
 お勧め本は、国内外、新刊、小説を問わず。私がゲーム好きだからということで、ミステリ系のボードゲームの紹介もありました。この連載からカバー帯付きの『ニューウェーブ・ミステリ読本』のお持ちくださった方もいらっしゃいました。
 なかでも印象に残ったのが、辻真先『焼け跡の二十面相』を紹介されたサイン本収集家の方。
「二十面相といえば、ポプラ社の乱歩ですよね」
 当該作を語られたあと、大きな紙袋から出てきたのは、大量の乱歩に関する稀覯本でした。ポプラ社の版違いをはじめ、奥付に本名の平井太郎名義が書かれた本や、直筆サインが入った本もあります。「自由に手に取ってください」とのことでしたが、恐れ多くてほとんど触れられませんでした。

 休憩をはさみ、いよいよ読書会です。
『君を見つけた星座』は、高校の天文部に所属する女の子と部員たちの2年間を描いた青春ミステリ連作短編集です。
「準主役の高橋がかっこいい」「50年前の学生時代を思い出した」と想定していなかった好意的ご意見や「ミステリとしては弱い」、「伏線が分かりやすい」という厳しいご意見をいただきました。マニアックになりすぎないようにあからさまに伏線を張りましたが、逆に意外性を損ねていたみたいです。
「世に出て批判されないのは赤子と涙のみ」と自分に言い聞かせ、ありとあらゆる罵詈雑言を覚悟していましたが、そんな心配はまったく無用でした。それよりも、自分の本をこんなに読み込んでくれる人がいてくださることに感動し、半ばすぎてからは自然に涙が浮かんでいました。
 皆さんがうなずかれていたのは、「平穏と不穏のバランスが良い」。日常の謎が多い平和な作品のはずですが、不安な気持ちになる状況が隣り合わせになっています。
 唯一例外の第一話は、この犯人当てをしたくて物語を考え、次の話はもっと残酷な事件にしようと思っていましたが、方向転換をして星座色を強くしました。
 ほかの話も、ミステリだから事件を起こそう、この舞台で起きてもおかしくない事件はなんだろう、論理的に解けるのはどうしたらいいだろうという思いが強くありました。
 それよりも強かったのは、第四話のある人物の思いです。後付けですが、あの言葉のために、天文部の話は世に出たのかもしれません。
 会長さんがまとめ、質疑応答が始まりました。人前で話すのが苦手なので、しどろもどろになってしまい、何を答えたのかよく覚えていません。
 竹本健治さんからも初めて自作の感想をいただけました。
「羽住さんがこんなに星に詳しいとは知りませんでした」
 子供の頃から星と星座と神話は好きです。ミステリに出会う前は、図鑑や伝説を繰り返し読んでいました。なので、作中に出てくる星に関する場面は、語句の間違いがないかと確認しただけで、もともと持っていた知識を活用しました。今まで語る機会がなかったので、親しくしている方こそ意外に思われるかもしれません。
 再び休憩をはさみ、最後は業務連絡。次回の課題本は森博嗣『すべてがFになる』だそうです。10代の会員が候補に挙げていらっしゃいました。
 自分が若者だった頃の本を、当時の自分と同じ年くらいの人と一緒に読む。
 こういった時を超えた交流が大好きなので、今度は参加者として佐賀ミステリファンクラブ並びに佐賀県を訪れたいと思っています。
(竹本健治さんと)

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