昭和50年発売の週刊少年チャンピオン1月20日号をお譲りいただきました、ありがとうございます。本号収録の『ブラック・ジャック』第58話「快楽の座」は、単行本には収録されておりません。
『ブラック・ジャック』のエピソードは基本的に1話完結のスタイルをとっており、単行本収録時には順番の入れ替えや欠番のエピソードが存在します。いくつかのエピソードは連載時発行は未収録だったものの後に発売された最終巻にまとめられたり、全集版などが発売された際に追加収録(初出時からセリフ改変などの修正はあり)されたりしています。
しかし後のエピソードで原稿を改修してリメイクされた第28話「指」(227話「刻印」に再構成されたために元原稿なし)と、第58話「快楽の座」は、初出の少年チャンピオン掲載時以降、一度も単行本収録されずにおります。
「快楽の座」は1960年代にアメリカ・エール大学の教授ホセ・デルガードによって発馬尾されたスティモシーバー(劇中ではスチモシーバー)をめぐってのエピソードです。脳に電極を埋め込み微弱な電流を流すことで、脳の活動を制御する、脳埋め込みチップとも呼ばれる装置です。
1963年の実験では、気性の荒い闘牛の脳にスティモシーバーを埋込み、リモコンで自由に操る実験を成功させました。この実験によってスティモシーバーは、「動物の脳を外部からコントロール可能とする装置」として知られるようになります。
しかしアメリカのみならず世界中で話題になったこの装置は、70年代に入ると他人を洗脳しコントロールできる装置という誤解が広がります。それだけでなく、何百人もの人が脳にスティモシーバーを埋め込まれたとしてデルガード教授を訴える騒ぎになりました。
もちろんそれらの訴えを起こした人は誰一人スティモシーバーは埋め込まれておらず、また、人間を自在に操れるかどうかの実験は行われておりません。この騒動のおかげで、医学界においてスティモシーバーを扱うことはタブーとされるようになっていきました。
ちなみに70年代オカルトブームの頃から言われている「宇宙人にさらわれて脳にチップを埋め込まれた」という主張も、スティモシーバーが発想のもとになっていると思われます。
「快楽の座」が発表された1975年はこうした一連の流れを受けた後となります。詳しいストーリーは省きますが、劇中ではブラック・ジャックの立場だけははっきりさせておかねばならないでしょう。
ブラック・ジャックはスティモシーバーを使う立場ではなく、別の医師がこれを使うことに異を唱え、最終的にこれを取り除く立場です。別の医師がスティモシーバーを使用するに至った経緯や、使用された患者(今回の場合は少年で、しかも精神疾患に関するものでした)の病状やその処置が引き起こした結果など、けっしてストーリーそのものに問題や齟齬があるとは思えません。
しかしやはり少年の病気に対する偏見や差別が生まれやすくなるであろうと思われるのは事実であり、これは封印もやむなしかという個人の感想を抱きました。
封印は封印されたままのほうが良いというのも事実ですが、やはり研究家にとっては確認しないといけないものであるのも事実です。あくまで当時の価値観や社会情勢の中で描かれた作品であることを前提に、間違っても現在の価値観などで批判したり影響を受けたりする愚かな行為は避けたいものですね。
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ですが実は過去の雑誌は当時の広告や記事など、後の単行本には収録されない情報が貴重という研究者も多いんですよ。あなたの実家の本棚をもう一度確認してみてください。
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